フィリピン・リトルタジャン・プロジェクト

農と食の環境フォーラム
(イオン環境財団助成事業)

 農と食の環境フォーラムでは、2000年度より、フィリピン・ルソン島の北部、イフガオ州リトル・タジャン村での農業自立と環境保全をテーマにしたプロジェクトを発足しました。ここに1年間の中間活動報告を行います。(2001.10.31)

【背景】

 フィリピンを含む東南アジア諸国では、急速な経済発展によって、伝統的な地域社会が崩壊し、その結果、森林が伐採されたり、持続可能な農業が、土地収奪型の農業に変わっています。そして、崩壊した地域社会の人々は離散し、文化が崩壊しています。
 これは、地球規模の環境破壊を生むひとつの典型です。
 環境破壊を防ぐ手だてには、地域の気候風土に合った森林を回復し、地域で循環可能な範囲での農業生産を行う必要があります。しかし、そこに生きる人々が、経済的手段を失ったままでは、森林の回復も、持続可能な農業も成立しません。同時に、地域社会が生き生きとしたものになり、地域社会が持続可能になることで、はじめて、農地や森林が再生が可能になります。

●リトル・タジャンの概略
 フィリピンにいくつもある少数民族村は、今、崩壊の危機にあります。そのひとつ、イフガオ州リトル・タジャン村は、1970年代に中央山岳地帯のタジャン地域から政府プロジェクトによって移住してきた少数民族であり、60世帯が暮らしています。また、近隣には同様に100世帯の少数民族村があります。
 土地面積は、4千ヘクタール強。15〜35度の傾斜地が連続する丘陵地です。入植期には、すでに土地の森林のほとんどが伐採されており、集水域周辺に小さな森がある他は、草地になっていたといいます。現在、面積の約4分の1が農地として使われ、主に、飼料用トウモロコシ栽培を行っています。また、比較的低地でため池のあるところや小川があるところでは小規模の水稲栽培が行われています。しかし、フィリピン平野部のような年2作ではなく、天水に依存した年1作の栽培となっています。その他の部分は水牛、ブラーマン種牛の放牧地として、草地のまま利用されています。さらに、自給用としてバナナ、マンゴー、インゲン、ニガウリ、トマト等も栽培されていますが、ほとんどが自家消費用です。雨天時には利用できない悪路を車で4時間ほどの距離にある平野部の町アウロラで木曜日、日曜日に開かれる市場以外販売先がないことと、農業用水がなく降水に依存し比較的乾燥に強い農作物しかできないという問題があるためです。作物の畑は水の散布を考えため池等水場周辺に見られます。
 リトル・タジャン村がかかえているさしせまりかつ重要な問題は大きく2つあります。
 ひとつは、その農業と経済構造で、もうひとつは、水問題です。

●ぎりぎりの農業状況
 リトル・タジャン村の経済的中心は飼料用トウモロコシです。牛は教育費やいざというときの蓄財として育てられており、経済的中心にはなっていません。この飼料用トウモロコシは、化学肥料、除草剤を使いハイブリッド種子を購入して生産されています。これら化学肥料、農薬、種子の購入を行い、生産後、仲買人に売却します。当然、この期間の現金収入がないため、彼らは次の収穫および土地を担保に借金をしています。農業資材、売却先、借り入れ先は村外にあります。飼料用トウモロコシは国際相場に影響され、また、彼らがじゅうぶんな知識を持っていないこと、情報がないこと、かつ、売り先が限定されることから経済的な悪循環が生じ、借金が借金を生む構造に陥っています。もっとも、このような状況は、他のフィリピン農村、アジア農村、ひいては日本にいたっても大なり小なり発生する事象ですが、リトル・タジャン村では2001年時点で担保の土地を奪われ生産手段を失った住民が若干発生しており、このままの状態が続けばこれまでの他の地域での歴史をみるまでもなく、住民は極度の貧困におちいり、村落が崩壊することは容易に予想されます。
 まだ、極度の貧困と飢餓のような最悪の状態にはいたっていないため、今後の取り組みいかんによっては持続可能な農業と生活が可能なぎりぎりの状況にあると言えるでしょう。
 さて、この飼料用トウモロコシですが、リトル・タジャンで経済作物として作付けされるようになったのは1990年代に入ってからで、入植がはじまってから20年間ほどは野菜・芋などの自給用作物を栽培、販売していました。その後、飼料用トウモロコシ栽培がはじまり、わずか10年ほどで借金漬けの生活となったわけです。

●水源確保と汚染
 リトル・タジャン村は山岳地にあるため河川等の水源がありません。生活用水は主に雨水の集水域に集まる地下5〜10メートルの浅い井戸に依存しています。頻度はあきらかではありませんが、渇水年には井戸が枯れてしまい、ある地域では村から4kmほどはなれた小さな泉のみが唯一の水源となった年もあったといい、渇水に対する恐れを彼らは常に口にします。
 雨水の集水域にあるため、住居などよりは最低でも5〜10mほど低地にあり、井戸でくみ上げたあと、さらに斜面を人力で運ばなければならず、重労働となり、日常生活での実際に使える水、使っている水はそれほど多くありません。
 さらに、潜在的に深刻な問題があります。飼料用トウモロコシの栽培に除草剤を使用していますが、この主力除草剤が2,4-Dです。この除草剤は、農業使用として日本ではすでに禁止されたものであり、ダイオキシンの発生が指摘されています。雨水が流れて地下を通りたまった井戸であり、場所によっては農地にすぐ近いこともあって、除草剤の残留がじゅうぶんに予見できます。発ガンなど今後の健康障害が予想されます。除草剤には、より低毒性のものもありますが、この2,4-Dはもっとも価格が安いため使用され続けています。
 水の問題は、生活用水のみではなく、農業用水不足もあります。すべての作物が雨水(天水)たのみであり、年や作付け時によって収穫量に大きな影響を受けています。なかには、数年かけて集水域部分に広大なため池を掘り、農業用水、牛などの飲用水などとして活用している人もいますが、作業が困難なこともあり、他の人に広がってはいません。

●現在のオルタナティブ
 現在、フィリピンのNGO・CORDEV(有機農業と複合農村開発センター)と日本のNPO(NOAPA)により、トウモロコシ栽培の無農薬有機栽培化と日本の有機畜産農家への直接販売による環境改善、収益改善を目指したプロジェクトが計画されています。

 しかし、今のところ、病害虫や農業技術、土地条件などの面で難航しているのが実情です。


【基本方針】

 リトル・タジャン村のふたつの問題は、短期的、中期的、長期的な対処が必要です。
 長期的には、畑作と稲作、畜産を組み合わせた経済的にも持続可能な農業体系、水源と有機質・木材確保、環境保全を目的とした森林復興のためのとりくみがもっとも重要となります。短期的、中期的には、そこにいたるまでの過程で、現在の飼料用トウモロコシ栽培での農業技術上の問題解決、ため池などの整備、生活水確保の労働力軽減、森林復元のための植林、畜産技術、加工技術の構築などが考えられます。
 すでに行われている有機トウモロコシプロジェクトもこれらの一環にあると考えられます。
 農と食の環境フォーラムは、ルソン島北部の有機農業振興と持続可能な農村開発をサポートするためのNGO・CORDEVと協力して、村全体の植林による環境保全、水源確保、地域に見合った農業などのトータルな取り組みを日本のNGO、農業生産者がもつ技術知識を利用して行いたいと考えています。
 初年度は、地域の環境、伝統的農業手法、転用可能な技術の調査を中心に行い、2年目以降に、植林をはじめとした具体的な実践を村人や技術リーダーらとともに取り組むことにしています。
 当面は、地域の1年間の気温、湿度、雨量など、農業に欠かせない基本的なデータを収集し、かつ、主に農業技術について、フィリピンおよび日本の他地域での取り組みを紹介し、導入の可能性を探ります。あわせて、植林などの可能性も検討します。

【プロジェクト関係】

 このプロジェクトは、フィリピンではCORDEV(有機農業と複合農村開発センター)と協働します。また、国内では、草の根貿易商社でありリトル・タジャン村の有機トウモロコシプロジェクトなどにも関わるATJ(オルター・トレード・ジャパン)や里地ネットワークの協力を得ます。
 なお、このプロジェクトは2000年度の(財)イオングループ環境財団の助成を受けています。(牧下圭貴)

トウモロコシ畑、土壌流出崩落が起こっている。 水の確保は、生活、農業ともに大きな課題

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