フィリピン・リトルタジャン・プロジェクト
活動報告2 2001年10月




【活動報告2】


 2001年10月4日より1週間、環境NGOスタッフの星野智子氏、農学博士の鈴木敦氏がリトル・タジャンを訪問した。星野氏には、女性の視点から生活の現状や問題点を抽出してもらった。鈴木氏は、農業状況調査の継続である。
 以下、そのレポートである。
 なお、今回の訪問で、マンゴーなどの植林について実践を行うことをCORDEVとの間で確認し、取り組みを開始することとした。


●リトル・タジャン再々訪

鈴木敦

 前回訪問した際設置した気象観測機器からデータを回収するため、10月4日から約1週間リトル・タジャンへ訪問した。
 温度および湿度に関してはサーモ・レコーダー「おんどとり」の設定にミスがあり、8月14日からのデータとなっていたがそれ以降のデータは無事回収できた。また降雨量についてはジュリアス氏の協力の下に前回訪問時からのデータが得られた。これらの気象データは1年間の記録を得ることを目標としており、現在も継続している。
 今回の訪問時は、ちょうど有機栽培トウモロコシの今年2回目の収穫時ということであわせて数カ所の圃場を見て回った。今回の予測収量は2.0〜2.5t/haと慣行栽培の3.5〜4.0t/haには及ばないものの徐々に栽培技術は向上しているとのことであった。
 今作での問題点はコーンボーラー(アワノメイガの幼虫)による被害である。これにより有機栽培トウモロコシで約20%との減収となり、2圃場でそれぞれ50本のトウモロコシを調べたところ食害発生率は100%と50%であった。食害が著しく茎部が途中で折れ、収穫がまったく期待できないものは少なかったものの、ほとんどのトウモロコシが程度の差があれ食害を受けていた。食害の状況から予想すると第2、3世代の幼虫によると考えられた。この地域でのトウモロコシ栽培は有機栽培、慣行栽培を問わず年2作で殺虫剤は使用していない。個々の生産者それぞれの時期に作付けを行っており、同じ地域に常にトウモロコシが存在している。これはコーンボーラーにとっては好条件であり、今後さらにこれによる被害が増大していくことが予想される。
 CORDEVではコーンボーラー対策として次作より植物で忌避殺虫効果が期待されるニーム等の資材を使用を考えているとのことであった。茎部にもぐり込むコーンボーラーのような害虫は殺虫剤よる防除が難しい。散布時期の特定には出現観察が重要となり、植物内にもぐり込んでから殺虫剤を散布しても効果は期待できない。根本的な対策はコーンボーラーのライフサイクルを断ち切ることであり、輪作体系を確立することが重要となる。グレッグ氏の話では近々近隣で遺伝子組み換え品種のひとつ殺虫性のBtコーンの試験栽培が始まるとのことであった。トウモロコシの単一栽培でこのような問題が発生してきたところでは解決策の一つとしてBtコーンが容易に普及する可能性がある。しかしそれもこの環境ではBt耐性昆虫の発生を促し、一時的なものになると思われる。
 現在、実験ほ場での取り組みの一つとしてリトル・タジャンにおいて輪作体系に大豆を組み込むことを協議している。大豆を作付けした場合、トウモロコシと同様に収穫をできるだけ乾燥した時期に設定したい。これは乾燥不十分で収穫するとカビが発生し、毒性の強いアフラトキシンに汚染される可能性があるためである。そのためにも、またその他の栽培作物や植林を検討する上でも基礎的な気象データの蓄積は必要であり、来年早々には再度訪問したいと考えている。


●レポート リトル・タジャンでの暮らし

星野智子

10月5日から8日まで、イフガオ州アルフォンソ・リスタ町リトル・タジャンという山村での人々の暮らしを見てきた。
インタビューした人:ホームステイをしたヤダン家の奥さんフローラさん(23歳)とその義姉イザベルさん


1)村の概要
村には70世帯、約780人が住んでおり、その大半は農業を営んでいる。高齢者は家族と共に住み、2〜3戸の家に一家が住むことが多い。
村には一つの小中学校があり、2〜3学年で1クラスという構成になっている、教師は3人、うち1人はボランティア。病院はなく、医療のこともわかるソーシャルワーカーが一人いるのみである。


2)人々の一日の生活
5時、6時ころには起床し、21、22時ころには就寝。朝食後、農地へ出かけ、19時程度に戻ってくる。学校では昼食時2時間は家に戻り、家で昼食をとる。ここでは毎食米飯を食している。日本の平均より1.5〜2倍多く消費している様子。昼は農地で簡単に済ませる。時々飼っている鶏をつぶし、鍋に入れて食べている。また、ゆでたトウロモコシを常に食している。

3)生活様式 家庭での女性の役割
―食事の支度/片付け
夕食を作るには約2時間を要する。男性が運んできた薪で火をおこし(50cm程度のものを1回に7〜8本使用)、米炊きと、野菜、豆、魚の塩漬けや干物を中心に煮付けたものや炒めたものを作る。残飯は犬や猫へ与えるが、野菜くずや排水はそのまま土の上に放置している。

―洗濯
1回にバケツ4杯程度の水が必要。農場の近くに川があるのでそこへ持っていってすることもある。すべて手洗い。

−掃除
床は板張りなので毎日、常にほうきで掃除をする。窓ガラスやじゅうたんがないので、掃除はその程度で済む。

問題点
*水の確保が厳しい。炊事・洗濯に欠かせないので朝夕に水を汲みに行かなくてはならない。1日6杯程度。歩いて3分程度のところだが、重量があり、道が悪いので厳しい。また村に7箇所しかないので、平均10世帯で1つは少ない。

4)経済状況
現在、有機トウモロコシの生産に取り組み、安定した現金収入を得ようとしているところ。家庭の中で現金収入が必要なのは、毎週木・日曜日Aurora(車で40分の町)の市場で買う時。買うのは魚の干物、トマト、コーヒー、油、砂糖、塩、缶詰程度。他にはセントラルエリアに限られるが電力が通じている家の場合、電気代が月々約60ペソ(約140円)やバイクのローンがある。

5)農業
家族揃って農業に従事している。家事が終われば農地へ出かけ、夕食の準備の前に男性たちより早く帰ってくる。学校や仕事に行っている兄弟たちは収穫の時期になると週末に手伝いに来る。カラバオ(水牛)はおよそ30年働くことができるので、農作業にとって大変貴重な存在である。

6)所感
静かな農村の中での暮らしは、質素ではありながら、近くで採れた食べ物の並んだ食卓を家族で囲むという、都会では難しくなった昔ながらの姿を見せてくれた。村の人たちと接していて、水の確保や、収量が一時的には減ってしまう有機農業にも前向きに取り組んでいるひたむきさを感じることができた。CORDEVの地域担当者が地域に入り込んで信頼関係を築いている成果とも言えるのかもしれない。
女性たちには問題点や改善点はないかと当初訊いてみたが、水の確保の話(井戸を増やして欲しい)以外は、今ある現状を受け止めるという姿勢が強く見受けられた。情報があまり入ってこない山村であるためか、他と比較してこうしたい、こうなりたいという要望が出たわけでもなく、またこちらから提案したり質問し過ぎて刺激をしても彼らにとって良くないのではという印象を受けた。

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