春藤佳奈監督 2025
2025年に放映された全12話のテレビアニメである。監督 春藤佳奈、キャラクター原案は竹本泉が務めている。人類がいなくなった地球で「ホテル銀河楼」という銀座のホテルを維持し、人類と人間のホテルオーナーの帰還、そして、お客様の来館を待ち続けるロボットたちの物語である。ロボットといっても主人公は人間(女性)型のAIアンドロイドでホテリエのヤチヨであり、登場するそのほかのロボットはドアマンロボットがかろうじて人型、ほかは機能に応じた形態をしている。
さて、何度もくり返すが私はどうしようもない感じのロボットものが好きである。とくに廃墟や人類が不在になった状況というのは好物だ。アニメーションだと、ピクサーの「WALL-E」(アンドリュー・スタントン監督、2009)などがそれにあたる。
物語はいたってシンプル。人類を含む霊長類を殺すウイルスのような生物物質が大気中に徐々に広がり、人類の生存が困難となってしまった地球。人類は慌てて太陽系外星系に生存の可能性を託し、地球から脱出してしまった。それから100年。人類のいない地球は都市に緑がはびこり、野生動物が暮らす世界となっている。
しかし、ここ銀座のホテル銀河楼だけは違う。ロボット従業員による運営を行なってきたホテル銀河楼は、人間のオーナーの「すぐに戻ってくる。それまではホテルを頼む」という言葉に忠実に、ロボットたちがホテルを守り続けてきた。宿泊客0、予約0、ホームページ閲覧数0、目標未達であっても、毎日毎日。100年の時を経て、少しずつロボットたちは無期限休職になっていく。つまり、壊れていく。残されたのはホテリエのヤチヨ、ドアマンロボ、ときにはレセプションもこなすハエトリロボ、2体のお掃除ロボ、調理担当ロボ、バーテンロボ、菜園飼育ロボ、ポーターロボ、営繕ロボ、そして、1話で早くも無期限休職扱いとなった温泉掘削ロボである。
さらには、地球の環境情報を収集しデータ化して宇宙に行った人類に送信する環境チェックロボも登場する。かつては数多くいた環境チェックロボももはや1体しか見当たらないのである。
ある日100年ぶりの客がホテルに到着する。それは知的地球外生命体であった。そしてホテルに物語がはじまるのである。
50年後、次の客がやってくる。母星での縄張り争いに敗れた(地球的にぴったりくる表現として)タヌキ星人の一家であった。彼らの来訪によって物語は次々に新たな展開を迎えるのだ。
ギャグ、パロディ、笑いあり、涙ありのホテル&ロボットエンターテイメントアニメーション。突っ込みどころもたくさんあるが、SFアニメとしては結構正統派だと思う。竹本泉のキャラクター設定も実によろしい。個人的にはオープニングのヤチヨによるダンスが気に入っている。
本編でも、年単位での時間の制約がないのでウイスキーを大麦から栽培して発酵、熟成させたり、人工衛星ロケットを開発して飛ばしたりと、ホテル業務の合間を縫ってオーナーの夢とホテル経営の充実のためにがんばるヤチヨさんたちである。
なかでも、ホテルと言えば冠婚葬祭。ちょっとした盛り上がりをみせてくれる。
ロボット好き、廃墟好き、ホテルドラマ好きにはお薦めしたいSFアニメーションである。