有機(オーガニック)給食実現に向けての課題
はじめに
有機(オーガニック)給食への注目が高まっています。2010年代後半からいくつもの運動体が生まれており、ある意味でこれまでにない広がりを見せようとしています。
背景には、千葉県いすみ市のように首都圏近郊での実践事例がでてきたことや、政府による有機農業推進の政策が報道されるようになってきたことがあると思います。海外での事例も映画や報道などで知られるようになってきました。
有機給食については、愛媛県今治市をはじめ1970年代、80年代からいくつかの自治体や学校、あるいは学校栄養職員(栄養士)などが取り組みをしてきました。その柱を担っていたのは有機農業運動や消費者運動の方々でした。
当時、有機給食はふたつの流れがありました。ひとつは都市部の消費者運動や学校栄養職員(栄養士)の取り組みにより、地方の有機農家と連携して産直で米や野菜を学校給食につかう流れ。主に単独調理場で学校栄養職員が学校ごとに独自に献立を立て、食材を調達する権限をもつ学校で行なわれていました。
もうひとつは農村部で同じように学校栄養職員を中心とした取り組みもありましたが、自治体単位で地場の農家と連携して学校に有機農産物を導入していった「地場産」有機給食の流れです。地場産有機の場合、先に「地場産」給食の取り組みがあり、その延長で「地元の子どもたちに食べさせるならば農薬を使わないものにしよう」という流れで取り組まれた例もあります。
2005年に食育基本法ができて、学校給食の「地場産」化が政策目標になったことや、それ以前からの調理の民間委託化によってなるべく調理を簡素化する流れから、都市部での産直有機食材の扱いは次第に難しくなっていきました。
いまの有機給食を求める動きも多くの場合「地場産」が前提になっています。地場産であれば、地域の農家の理解が得られ、学校給食の設置者である地方自治体(区市町村)の首長や議会の理解も得やすく、予算もつけられることから今後も地場産有機が導入の主流になることでしょう。
しかし、全国規模で有機給食を広げていく上では、「地場産」だけでは実現できません。
そこで、全国規模で有機給食を広げていく上での課題を整理しつつ、地場産有機も含め、導入のための検討をしてみます。
1給食サイドから考える
学校給食に有機食材を取り入れるには、いくつものハードルがあります。主食である米、パン、麺と、副食材である野菜や肉、卵、さらには学校給食で事実上の必須となっている牛乳は、それぞれに違った難しさを持ちます。
また、学校給食は設置者が地方自治体です。学校給食にどのくらいお金をかけ、どのような施設設備、運営方法で行なうのかは、各区市町村の考え方次第です。だから、同じ都道府県でも、学校給食のしくみが区市町村ごとに違うということがあるのです。隣の市でできたから、うちの市でも同じことができるかといえば必ずしもそうではありません。
簡単に違いのポイントをまとめると、
調理場…単独校方式(自校給食)、センター方式(共同調理場)、その他(民間事業者施設)
献立…統一献立(自治体共通)、独自献立(調理場単位)
食材購入…一括購入(自治体一括)、個別購入(調理場単位)
栄養教職員…献立を立て、給食運営を管理し、食育を行なう。全校配置あり、なし。
調理…実際に調理を行なう。直営調理(調理員が調理)、民間委託(外部事業者が調理)、その他(民間事業所で調理)注2
この違いによって、有機給食の導入のしやすさが変わってきます。
●調理場
単独校であれば1校からの取り組みも可能です。食材数もセンターに比べれば少なくて済み、同時にたくさんの食材を揃える必要もありません。センターの場合、大きいところになると1万食分を揃える必要があります。また、センターの場合、大きくなるほど、調理の合理化がもとめられ、加工品、半加工品など下処理が少なくて済む食材を選ぶ必要性がでてきます。
●献立
統一献立は、自治体内で同じ献立をつくり、各調理場が調理をします。学校単位での差は基本的になくなります。独自献立は調理場単位で立てます。単独校の場合、学校行事や地域的な特徴に合わせて献立を立てられるため、より工夫の余地が高いと言えます。
折衷的なものとして、標準献立といい、一部の食材や献立の変更を調理場単位で変更することが可能な方法もあります。
献立は有機給食実現上、とても重要です。有機農産物の場合、施設で通年栽培されているものもありますが、その理念や技術から言ってもできるだけ旬の適期栽培が望ましいものです。季節に合わせた献立が必須となります。また、現状は有機農産物は限られた取り組みであり、気候などにより、収穫が予定よりずれることもあります。それに対して献立は3~2カ月前には立てられており、それを柔軟に変更できる状況や体制がなければ、給食が成立しないということにもなります。
●食材購入
一括購入とは自治体で全調理場分を購入すること、個別購入は調理場ごとに購入することです。全食材を一括購入する例もありますし、米や牛乳、パンなど基本食材のみを一括購入し、他の食材は個別購入する例もあります。また、米などは県や県学校給食会などがまとめて調達している場合もあります。牛乳については特別なルールがあるので本稿では割愛します。
また、食材調達にあたっては自治体の条例等で公正な入札や公共調達のために、登録済みの事業者でなければ契約できない場合もあり、注意が必要です。
●栄養教職員
栄養教職員は栄養教諭、学校栄養職員を総称しています。栄養教諭は2005年に導入された教職免許を持つ栄養士で、それまでは学校栄養職員でした。今でもどちらの職種もあります。栄養教職員は学校の教員と同じく都道府県職員で各区市町村に配属されます。栄養教職員はその設置定数が学校数よりも少ないため、区市町村によっては全校配置のために追加採用している場合もあります(同じ職種で身分が違う)。
基本的に栄養教職員が有機給食導入する際にもっとも重要な関係者となります。単独校、個別購入可能な場合には、栄養教職員が有機給食を主導することが可能ですし、そうでない場合でも、栄養教職員の理解があれば導入がしやすくなります。
●調理
調理については1985年に学校給食の合理化通知というのが当時の文部省から出て、センター化、調理員のパート化、民間委託化がすすめられています。
直営調理場ではフルタイムの職員数が減り、民間委託された調理場では安い価格で調理事業者が契約しており、調理スタッフの低賃金が常態となっています。そのため、できるだけ調理の簡素化が求められており、規格のそろった食材、半加工済みの食材などが選ばれやすい傾向にあります。
●給食の予算と経費
学校給食は、学校給食法によって、給食施設の設置や運営に関する経費は設置者である自治体が負担し、食材については保護者が負担することになっています。
保護者が負担しているのがいわゆる「給食費」であり、イコール食材費です。
近年、学校給食の無償化も課題になっていますが、給食費の増額は、家計環境の悪化などからとても難しい状況であり、一方で食材の高騰は気候変動による価格の不安定化、円安や燃料費・輸送費の高騰などもあり今後も続くと考えられ、有機給食化による費用問題以前に学校給食運営を難しくしている現実があります。
●関係者
学校給食には様々なステークホルダー(利害関係者)がいます。
学校…食育は学校単位で計画されます。栄養教職員だけでなく、学校長、教員、事務職員などの理解や考えも給食運営に影響します。
自治体・教育委員会…自治体が設置者であり、教育委員会が運営責任者ともなります。予算、運営方法など、首長の考え方、議会での議論、教育委員会での議論も影響します。
生産者・流通事業者等…学校給食の食材を提供する生産者、流通事業者もあります。とくに、パン事業者や炊飯事業者(外部委託の場合)、あるいは、米屋(精米流通)、農協など有機化する際の重要な要素となります。
保護者・市民…給食費を払うのは保護者であり、予算の大本は税金です。当然、保護者や市民の声は貴重ですし、理解も必要です。
さて、とても簡単に給食サイドのしくみを説明しましたが、このなかで、施設設備や調理体制などは簡単には変えられません。変えるためには数年から10年単位の見通しと取り組みが必要になります。これらの取り組みも重要ですが、本稿では取り扱いません。
短期的に有機給食を実現する上では、自治体における調理場と扱っている食材の現状、取引方法などの具体的な制約条件を知ることも大切です。
学校給食をみてみると、ごはん、パン、麺という主食の場合と、副食(おかず)の場合で条件が異なっている場合が多くなります。
主食は量が多く、取引先は自治体で統一、一括購入という例がほとんどになります。とくに米は多くの地域で生産されており、給食サイドでは費用や流通上の問題がなければ、調理面などでは問題が少なく、有機給食導入に適した食材と言えます。
副食の場合には、食材数も多く、年間を通して変わり、献立の多様性も加わって条件が複雑です。ただし、玉ねぎ、ジャガイモ、にんじん、大豆など年間を通して主に使う食材に注目するとそれほど難しくなく考えを整理することも可能です。
そこで、次の項目では食材の供給元である生産サイドから考えてみます。
2農業サイドから考える
ここでは、学校給食の有機化においてもっとも可能性の高い米とそれ以外に分けて考えます。日本において米は特別な作物であり、農業生産、農業政策も米を軸に組み立てられていると言っても過言ではありません。
水田稲作は、戦後の化学肥料、農薬、トラクターなどの機械化によって生産性を高めていきました。また、第二次世界大戦後に農地解放で農家は個別の経営者となりましたが、実質的には農協組織などが集荷・販売を担い、生産者は米を作ることに特化することとなりました。その後、米の減反政策などもありましたが、いくつかの要因から稲作は「面積当たりの生産性を上げる」ことに力が注がれ、機械化、化学肥料、農薬の多用という構図を生み出します。
農薬の多用は農家自身の健康被害を引き起こし、減反政策などにより自分の土地で自分が望む農作物を作る自由、売る自由さえ奪われていることなどから、脱農薬や消費者との提携と連動する形で稲作の有機農業が行なわれることになりました。これは、化学化、機械化以前の稲作技術とは異なり、農家が自分の意志で化学肥料や農薬から脱し、現代の経済環境の中で有機農業を支える消費者と提携することで生まれた理念と技法だったのです。
つまり、有機農業は現代の社会的課題に対する新たな価値として生み出されたものです。そこには、理念や技術面で様々な形態が生まれました。現在でも、有機農業、自然農業、自然農法、オーガニックをはじめ、たくさんの言葉があり、考え方があり、技術があります。そのどれが優れているか、正しいかを判ずることはしません。
本稿では、科学的な背景を持ち、常に試行錯誤しながら農薬、化学肥料に依存せず、環境汚染を極力避けながら循環と持続可能性、生物多様性に取り組む栽培方法を広い意味で「有機農業(オーガニック)」と表現します。
水田稲作の有機農業は様々にありますが、基本的に確立しています。そして、課題も明らかになっています。
現在、政府は有機農業の推進をうたっていますが、一方で、加工米、飼料米などとして、多収穫を強力に推進しています。多収穫のためには、化学肥料の多投、それに伴い、病害虫抑制のための農薬防除が欠かせません。農家の経営面だけをみれば、主食用米、加工米、飼料米などで慣行の農薬・化学肥料栽培を、より多収穫に集中し、政府の補助金をもらって行なった方が得策という状況にあります。それは、現在のように化学肥料が高騰し、米の価格が安い状況にあっても変わりません。
有機稲作は、単位面積当たりの収量は慣行栽培に比べると意図的にやや少なめにすることが多いのです。植物としての稲に無理をさせず、健康に育て、風通しを良くし、病害虫を防ぐ意味もあります。また、食味をよくするための工夫でもあります。
有機稲作は、購入有機肥料の場合では化学肥料よりはるかに高額ですし、自作の堆肥や無施肥の自然栽培であっても農家の労働コストを入れれば高額になります。
とくに、有機稲作に関しての最大の課題は除草であり、次の課題はカメムシです。
もちろん、冷害や風水害、地域的な病害虫被害という突発的な被害はありますが、それは慣行でも有機でも同様です。通常時の課題は除草とカメムシになります。
除草には、慣行栽培の場合、水田用の除草剤を使用します。水の中で効果のある除草剤です。適切に使用すれば田植え後に1回散布するだけでその後の除草作業が不要となります。慣行栽培でもだいたい1、2回程度の使用です。
除草剤を使用しない場合、田植え前の代かき、田植え後の草を発芽させないための工夫、発芽、成長した草を取る工夫が必要になります。言葉だけの羅列になりますが、紙マルチ栽培、とろとろ層の形成、アイガモ農法、チェーン除草、除草機を押す、手取り…。
いずれにしても除草剤利用に比べると常に失敗のリスクはあり、手に負えないほどの草が生えて稲の収量に大きく影響を受けるということもあります。
そのため、水田稲作専業農家の中でも全面積有機栽培の方は比較的少なく、有機栽培(JAS有機)と、特別栽培(除草剤1回使用、それ以外の化学農薬・化学肥料不使用)で栽培するという生産者が見受けられます。それは、農家当たりの作業量の問題もありますが、万一のリスクに対する経営上のリスク回避とも言えます。
2010年代に入ってから、徐々に、「有機をやめたい」という稲作農家の声が聞かれるようになりました。一時期有機米の需要が落ち込んだことがあり、現在は有機米の需要は戻り、高まっていますが、特別栽培の需要は減少しています。それでは全面積有機米に変えればよいのですが、高齢化や人手不足もあり作業量や経営リスク的にそれはできないことから、いっそ全面積有機をやめようかという話になるのです。
もちろん、全面積JAS有機栽培の大規模稲作農家もあり、全面積有機化は不可能ではないのですが、現実としては需要はそれなりにあっても有機を増やすのに苦労している生産団体等が多いのも事実です。
もうひとつ、カメムシのことも触れておきます。慣行栽培であれば、殺虫剤の予防的投与などでこの被害は軽減されますが、ここで使われる殺虫剤の多くが効果が高く、環境影響が少ないと言われるネオニコチノイド系農薬と呼ばれるものになっており、この農薬の登場以降、ミツバチの巣の崩壊や水系の生態系の異常なども報告されて問題になっています。カメムシは未熟な米の汁を吸いますが、その際に黒い傷跡(斑点)を残します。食味や健康への影響はありませんが、この斑点が1000粒に2つあれば、米の規格検査のときに1等から2等に格下げとなり、生産者への支払金額が安くなります。そのため、カメムシ対策が大きな課題となっています。
一方で、精米技術の進歩により、斑点米の多くは機械で除去できるようになっており、一般消費者が斑点米を目にすることはあまりありません。それでも、有機農家の米にはときおり小さな黒い点をみかけることがあります。
産直流通など米の検査規格とは関係ない価格形成の場合には問題ありませんが、たとえば、有機米や特別栽培米が余っているからと一般流通に回そうとすると、安く買いたたかれる原因ともなります。この米の検査規格を変更すれば問題ないはずですが、現状は変わっておらず、慣行栽培で殺虫剤を多用する原因になっています。
さて、先ほどから時々「JAS」有機という言葉も出しています。有機米といってもいくつかのカテゴリーに区分できます。
まず、「有機米」という表示が可能な公的な「有機JAS」認証を受けた有機栽培米です。栽培方法、収穫、保存、精米、流通まで、他の米と物理的に区別され、認められた栽培基準で栽培、流通された米にだけつけることができます。
次に、有機農業で栽培された米です。「有機米」とは言えませんが、化学農薬、化学肥料を使用せずに栽培された米です。事前に届け出と県などの確認を受けることで「特別栽培米」として表示することは可能です。
そして、減農薬や減化学肥料の米。なかでも多いのは、除草剤1回のみ使用し、それ以外の化学農薬、化学肥料を使用しない米です。おおむね地域の半分程度の減農薬、減化学肥料の使用であれば、事前の届け出と確認により「特別栽培米」として表示することも可能です。
特別栽培は、JAS有機に比べると認証費用はほとんどかからないといってもいいですが、現在は需要が限られています。
JAS有機米を学校給食に届けるためには、有機栽培の生産者だけでなく、精米工場でも有機米の取り扱い認証が必要になるなどの問題があります。
そういう施設を自前で持つ生産者団体や精米工場もありますが、オーガニック給食というとき、どこまでをめざすのか、地域の実情や目的を踏まえて取り組む必要があります。
さらに、学校給食で「ごはん」の米を変えるためには、自治体によっては大きなハードルもあります。米が県単位など広域で契約購入されていたり、委託炊飯で大きな炊飯工場から「ごはん」として学校に届けられている場合、自分の自治体だけ米を変えるというのが難しいことがあります。
有機米ではありませんが、かつて高知県南国市では地場の棚田米(減農薬米)を使用し、学校ごとの炊飯に変えるため、県の学校給食会や、市内の民間炊飯業者と長い時間をかけてきびしい交渉を行い、変更まで何年もかかったという事例がありました。このときは、当時の市長の黙認のもと、当時の教育長(元校長)が粘り強く交渉を行なっていました。
そのように自治体における給食用ごはんと米の供給方法が最後のハードルになることもあり、事前の下調べも必要です。
米以外の有機化については、地場で生産されている有機農産物があれば、それを事例にして、どうすれば学校給食で扱えるかを考えると導入のきっかけになります。
献立と使用時期の問題なのか、流通上の契約の問題なのか、生産量の問題なのか、それとも、地域合意(農協とか他の農家)の問題なのか、扱うことを前提に、関係者間で議論を深めることです。
一方、地場産にこだわらないのであれば、話はより単純になります。
流通事業者が扱ってくれるのか、あるいは、新たな流通事業者の参入が認められるのか、価格差がある場合、その負担をどうするのか、量の不足を調整可能か、などです。
この場合、玉ねぎ、ジャガイモ、にんじんなどの通年流通作物や学校給食で主要につかう作物を洗い出し、それを導入の入口にすると、献立変更の負担もなく、量の不足も調整が可能になるため、導入の障害は自治体、学校、流通関係者の合意と価格差のみになります。
可能な地域であれば、愛媛県今治市のように、自治体が有機生産者を育成しながら、学校給食に必要な食材の栽培を増やしていく方策がもっとも確実です。
なお、小麦や大豆の有機化については、事例はあり、不可能ではないが、天候による被害という生産者のリスクが大きいことを理解し、政策的なサポートがなければ現状は難しいという指摘にとどめます。もちろん、海外産の「有機」小麦、大豆を使うことも可能です。現状、「国産」小麦、大豆は政策的に支援されており、慣行栽培における輸入小麦のポストハーベスト農薬(収穫後に使われる農薬と同成分の化学薬品を食品添加物的に使い、流通時の病害虫を防止する、残留農薬が多い)問題を考えると、「国産」小麦、大豆の積極的な使用は有機給食化の中でも推奨していいのではないかと考えます。
「有機給食」を国産に限るのか、輸入品も含めて「有機化」を推進するのかという課題は、なんのために「有機給食」を行なうのか、という問いにもつながります。
最後に、そもそものことについて考えます。
3何のための有機給食か?
まず、学校給食とは何かについて考えます。学校給食には大きなふたつの目的があります。学校給食法や食育基本法などの理念が求めているのは「教育」です。学校給食は教育を目的に実施されており、その教育の目標は現在7つ掲げられています。
1、適切な栄養の摂取による健康の保持増進を図ること。
2、日常生活における食事について正しい理解を深め、健全な食生活を営むことができる判断力を培い、及び望ましい食習慣を養うこと。
3、学校生活を豊かにし、明るい社交性及び協同の精神を養うこと。
4、食生活が自然の恩恵の上に成り立つものであるということについての理解を深め、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
5、食生活が食にかかわる人々の様々な活動に支えられていることについての理解を深め、勤労を重んずる態度を養うこと。
6、我が国や各地域の優れた伝統的な食文化についての理解を深めること。
7、食料の生産、流通及び消費について、正しい理解に導くこと。
この目標から分かるように、学校給食は食べるだけではその目標を達成することができず、給食の食材や献立そのものを教材として給食時間だけでなく教科教育の時間を含めて活用することが求められています。学校給食は「生きた教材」です。
そこで、この学校給食の教材としての可能性を高めることが必要です。
地場産の食材は生産者が近く、教材の工夫の余地が大きくなります。
有機農業は、その理念や技法から、環境、生物多様性、循環型社会など、今日必要とされている社会的課題とその解決に向けた理解の教材に使いやすく、教材としての価値が高いと言えます。
問題は、これを教材に使うための栄養教職員をはじめとする教員側の理解と教育的実践です。ただ有機給食を食べさせればいいというものではないのです。
一方、気をつけなければいけないのは、「不安の押しつけ」です。「有機給食は農薬、化学肥料を使っていないから安全であるという」という表現は、日常的に食べられている食品は農薬や化学肥料を使っているから危険であるという考えに直結します。
もちろん、より安全性が高いのは有機農産物ですが、「安全」を主目的に位置づけると、子どもたちに社会に対する不安と不信を生むことになります。より安全な社会にしていくのは大人の役割であり、子どもたちは社会や大人に対して信頼を持って育ち、そのなかで、社会の課題に気づき、問題を把握し、解決をめざすようになることが必要です。
さて、もうひとつの学校給食の目的はなにか。それは、法律等には間接的にしか書かれていません。学校給食実施基準の第1条「これを実施する学校においては、当該学校に在学するすべての児童又は生徒に対し実施されるものとする」とあります。当たり前のようなことですが、この条文に背景があります。学校給食のもうひとつの目的は貧困対策です(でした)。第二次世界大戦後、国内の貧困は、子どもたちの飢えにつながりました。学校教育の実施には同時に食事の提供が必要だったのです。それも、経済的に食べられない子どもがそれによる引け目などを感じることなく学校で教育を受けられるようにしなければならないという社会的な要請と目的があったのです。貧困問題はその後徐々に影をひそめていきましたが、今世紀に入るころから再び目に付くようになりました。現在議論になっている給食費の無償化なども、格差の拡大を受けてのことでしょう。
学校給食は、教育としての目的に沿って発展していきましたが、あらためて、学校給食はすべての子どもが安心して教育を受けられる環境をつくるためにあることを確認しておきたいと思います。
最後に、有機給食を推進する上で大切な視点があると考えています。
それは目的をはき違えないことです。
「有機給食」は教育のため、つまりは子どもたちのために行なわれるものです。
地域振興や地域の農業振興が第一の目的ではありません。もし、結果的に有機給食を実現することで地域振興や農業振興につながったとしても、それは副次的な効果であり、それを第一の目的にすると、どこかでおかしなことになりかねません。
もちろん、有機給食を推進し、とくに地場産で行なうことは社会的課題に沿ったものであり、首長や議会、市民の理解は得やすくなります。農家も協力してくれるでしょう。
しかし、給食は政策の道具ではないのです。
なぜこれを強調するかというと、かつて学校給食は、ごはんが出せませんでした。第二次世界大戦後、アメリカの余剰小麦を消化するために、学校給食はパンを主食とする政策が長く続いたのです。それが、米飯給食導入になったのは今度は日本国内で米が過剰になり、古米が政府の倉庫に溢れてからでした。ごはん給食の導入は、今度は余剰米の消化という側面があったのです。
「有機給食」の推進を政策的な課題として推進することになんら異論はありませんが、学校給食は決して政策の道具にしてはいけません。
学校給食は、各区市町村ごとに特色があります。すばらしい給食と教材化を実施している自治体や学校もあれば、ちょっと残念な学校給食もあります。地域の状況はさまざまです。その地域の特徴や特色、現在の課題に対応しながら、給食現場からの有機給食化がすすみ、それを政策や予算面で支援する形になることを切に望みます。
かつて、学校給食の合理化反対や教材化をめざす運動団体の集会で聞いた話です。
自校給食、独自献立、調理は直営で、食材も個別発注ができる体制で栄養教職員が産直で有機農産物を取り寄せて学校給食に使っていました。しかし、食育推進の政策のなかで、地場産優先の方針が出されたこと、調理が委託になり、食材の引き受けで産直が問題視されたことから有機農産物が使えなくなりました。産直の頃には、栄養教職員は自費で産地を訪ね、栽培方法をみたり、話を聞いて、それを給食便りなどで紹介していたそうです。そのように栄養教職員や教員、自治体関係者、農業関係者の中には、教育への情熱をもって取り組みながらときに障害に突き当たり涙を流してきた人たちがたくさんいます。
いまもそういう想いを持った人たちは必ずいます。
有機給食への道はひとつではありません。ひとつずつ、実践事例が増えていくものと信じています。