ワードリストへ


いまさら聞けない勉強室&ワード集



農業と砂漠化

世界規模での砂漠化が進んでいるそうです。1年間に約600万ヘクタール、日本の全耕作面積を超える広さが砂漠に変わっています。異常気象、放牧のしすぎ、森林伐採、開発、農業の行きすぎなど、砂漠化の原因はいろいろな要素があります。日本の食糧輸入や農業も砂漠化と深い関わりがあります。私たちの生活と直接関わりの深い「砂漠」について考えます。


【アメリカは世界の穀倉】

 アメリカ合衆国は「世界の穀倉」です。小麦をはじめ、とうもろこし、大豆、米など主要な穀類を世界中に供給しています。その生産は、日本では想像もつかないような大規模な面積で行われ、大型の機械を使って、化学肥料、農薬を使うことで成り立っています。
 日本、中国、ロシアを含め、世界の多くの国々がアメリカの食糧に頼っています。
 その大規模な生産量は、経済的にも大きな規模になります。
 大豆やトウモロコシなどは投機の対象とされ、雨のひとふり、収穫予想の報道に、価格が上下したり、需要と供給のバランスが狂ったりします。
 工業製品市場と違って、自然による収量の増減というギャンブル性があり、食糧という必ず需要が存在する「国際商品」になっています。
 日本は食糧自給率が極端に低く、このような「国際商品」に頼って生活しているのですから、万が一の時は大変です。足下を見られても買わないわけにはいかないのですから。

【作れば滅ぶ穀倉地帯】

「とうもろこし1トンで2トンの土が失われる」という言葉があります。今のアメリカの農業を言い当てている言葉です。
 農作物の輸出というのは、土と水の輸出と同じことです。植物を育てる力のある土と、生命の柱である水を売ってお金に換えているということです。
 しかも、輸出分の土や水だけではありません。
 さらに多くの土や水が失われることになります。
 土とは単なる無機物のカタマリではありません。ミミズや小動物、カビ、細菌など多くの微生物と植物、その死骸や排泄物から生まれる有機物と無機物が織りなす複雑な生態系です。
 土は生きています。だから、少々のダメージがあっても回復することができます。農業生産は、この回復力を超えない範囲で営み、足りないものだけを補えば、ずっと続けることができます。
 ところが、欲と無知にまかせて土の持っている回復力を超えて農業を続けると、土は死んでしまいます。水を中に保ったり、土の成分同士がかたまって支えていこうとする力も失われ、やせ衰えて、ちょっとの雨で崩れたり、乾燥すると砂漠のようになってしまいます。アメリカの穀倉地帯の大地が、今、このような状況になっています。

 今もアメリカは世界有数の農産物輸出国です。でも、ちょっとした気候変化で豊作と凶作を繰り返しています。そして、着実に「農業ができず、表土が流れていく」砂漠が広がっています。

【日本の「砂漠化」】

 日本の農業は崩壊寸前です。米の場合、きちんとした食糧生産の方針がないままに輸入ははじまり、減反は強制されています。そして耕作放棄地は増え続けています。同時に森林や湿地も減っています。このまま田畑が減り、森林や湿地が減り続けたらどうなるでしょう。
 日本は、温帯で雨の多い島国です。急な山、急な川の土地で、森や湿地や水田が降った雨を貯め、ゆっくりと流し、表土が流れさるのをくい止めてきました。この役割がなくなります。人間の作るダムは水を貯めることができますが、大地から土が流れさるのを止めることはできません。せいぜい流れてきた土をせき止めることができるだけです。
 アメリカの穀倉地帯と同様、化学肥料に依存した過剰な農業の結果、土がもろくなっています。
 そして、温帯地方の砂漠化とも言える「表土流出」が起こります。表土が流れた後の土地は農業を営むことができません。それだけではなく、表土が流れ陸上の植物が減っていくと、海もまた「砂漠」と言える状態になります。陸の植物が作り出す栄養分がなくなり、プランクトンや海藻がなくなって魚もいなくなります。
 陸と海は同時に「砂漠」になってしまうのです。

【食糧自給を忘れると】

 日本は世界に名だたる食糧輸入国です。つまり、世界に名だたる「土の輸入国」ということです。日本の穀物自給率は30%未満。穀物の7割は海外に依存しています。また、大豆の自給率は約5%。95%が海外からのもの。
 もともと日本は耕作面積が少ない割に農業生産に恵まれた地域です。特に水田稲作は今の日本の消費を超えて生産する能力を持っています。
 生産可能な日本の農業を捨て、海外に食糧を頼ることは、日本と海外の「砂漠化」を進行させることです。砂漠化は、やがて農業ができなくなることを意味します。つまり、近い将来食べるものが不足する時代も考えられるということです。
 日本だけでなく世界と環境のためにも日本の食糧自給率を高めていくことが大切ではないでしょうか。

copyright 1998-2000 Keiki Makishita