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いまさら聞けない勉強室&ワード集



ダイオキシン 2

 むつかしい時代です。「ポリ塩化ダイベンゾ−パラ−ダイオキシン」なんていう物質のことを、日常のニュースの中で聞かされ、それが私たちの生活や命にさえかかわっているんですから。
 このダイオキシンは、人間が何か「便利」なものを作ったり、使ったりすると、とたんにあらわれます。人間にだけバチを与えるのでなく、人間にも自然にも大きな影響を与えます。むつかしいけれど、ちゃんと知っておかなければならない、そんな存在です。


【どんな悪さをするの】
「人間が作り出した史上最悪の物質」と呼ばれますが、一体どんな悪さをするのでしょうか。
 ダイオキシンを一度に大量に浴びると死にます。大量と言っても、0.1mgレベルで死にます。しかも、すぐには死なず、実験動物などでは、2〜6週間かけて死ぬそうです。
 死ななくても、胸腺やすい臓が小さくなって免疫機能が下がり病気になりやすくなったり、造血機能が落ちます。肝臓にも障害が起こります。腎臓の機能などにも障害が起こります。イルカの大量死は、ダイオキシンが高濃度に蓄積した結果、免疫機能が低下してふだん発病することのないウイルスなどの病気で死んだと考えられています。
 このほか、皮膚障害や神経障害なども起こります。
 ただし、日常的な生活で、すぐに0.1mg=0.0001g=100000000pg(1億ピコグラム)ものダイオキシンを蓄積したり摂取することは考えにくいので、ひとまずご安心を。
 しかし、微量であっても、発がんや生殖障害が起きます。発がんは、筋肉や脂肪組織などふつうがんにはなりにくいところや肺がん、リンパ腫などをはじめ、高い発がん性をもっています。ダイオキシンが不純物として混ざっていた除草剤のCNPは、水田で使われていましたが、その流域で暮らす方に胆どうがんが高い率で発生していました。
 生殖障害は、男性が精子を作れなくなったり、男性ホルモンの減少、女性が子宮内膜症や妊娠率の低下、流産などをひきおこします。内分泌かく乱作用(環境ホルモン作用)です。また、奇形などもひきおこします。これらは、ナノグラム(ng)レベルで作用すると考えられています。1ng=0.000000001g=1000pgです。


【耐容一日摂取量】
 現在、日本のダイオキシン類耐容1日摂取量は、体重1kgあたり4pgです。4pg=0.000000000004g、つまり、100,000,000kgに4gの量です。これくらいならとっても身体に影響がないでしょうという数字です。ちなみに、現在の1日推定摂取量は体重1kgあたり2pg〜14pgとされています。蓄積量については、データが少なく、いろんな資料を見てもまちまちなので、ここでは書きません。どれを信頼していいのか分からないのです。
 言えることは、食べものや水にごくごく少しずつ入っていて、なかなか身体から排出されないので長い年月をかけて蓄積されているということです。それが、すぐに死ぬような量ではなくても、発がんをはじめ、身体に影響を与える可能性を高くしているのは間違いありません。


【どこから生まれるの】
 ダイオキシンのやっかいなことは、作ろうと思って作っているわけではないことです。農薬に不純物として含まれていた、製紙工場の排水に含まれていた、ごみを焼いたらできてきた、ディーゼル自動車の排ガスに含まれていた…。そうそう、タバコの煙にも含まれています。ダイオキシンは、1930年代、化学工業が発達した頃から急増しました。それまでも、自然界で木が燃えたり、人が木を燃料として使ったときに微量のダイオキシンは発生していましたが、環境や人体に大きな影響を与えはじめたのは、この頃からです。
 ダイオキシンは、空気や水を通じて生命に取り込まれます。脂肪と結びつきやすく、排出されにくいので、食物連鎖によってだんだんと蓄積されていきます。だから、北極などの動物もダイオキシンに汚染されています。人間も、空気や水、そして食べものからダイオキシンを取り込み、身体の中にため込んでいるのです。


【そもそもどんなものなの】
 ダイオキシンは、正式にはポリ塩化ダイベンゾ−パラ−ダイオキシン(PCDD)といいます。ダイオキシンには、その分子構造によって75の異性体があり、一番毒性が強いのは、2,3,7,8-四塩化ダイオキシン(TCDD)です。これに、ダイベンゾフラン(ジベンゾフラン)とコプラナーPCBを合わせてダイオキシン類といいます。
 コプラナーPCBは、PCBの不純物です。かつて絶縁体や感圧紙などに使われたPCBは、コプラナーPCBを含んでいました。そして、ダイオキシンと同じく、空気や水を汚染し、食べものを通じてすべての生命体を汚染しています。コプラナーPCBを含むダイオキシン類はとても分解されにくく、一度自然環境に放たれると生態系に入り込んでいつまでも生きものを汚染するのです。
 なお、ダイオキシン類は、それぞれの毒性が違うため、汚染や毒性の強さをあらわすときには、一番毒性が強いTCDDに換算して表現します。それをTEQと表記します。ですから、耐容1日摂取量4pgとは、正しくは4pgTEQのことです。


【これからどうしたらいいの】
 今、世界中でさまざまな対策がとられていますが、一番やっかいで大きな発生源がごみの焼却です。ダイオキシンは、塩素と酸素、水素、炭素の有機化合物です。ごみにはいろいろな物質が含まれますが、このなかで塩化ビニールや塩化ビニリデンといった塩素のついたプラスチック類は、食塩などと違い塩素ガスが発生しやすいことから、ごみを燃やす際にダイオキシンが発生する大きな原因になっています。
 ダイオキシンは、燃やすとき比較的低い温度で発生しやすいことが分かっています。そこで、日本ではごみ焼却炉を大型化し、高い温度で連続してごみを燃やしてダイオキシンの発生をおさえようとしています。このために、とても高い費用をかけ焼却炉を新設したり、改築しています。しかし、一方で、ごみを連続してたくさん燃やし続けるということは、ごみを出し続けなければならないということになります。高いお金、つまり税金をかけてごみを出し続けて、燃やし続けるのはちょっと変な感じがします。
 それよりも、原因となる塩化ビニールや塩化ビニリデンを取り除いた方がいいのではないかと思います。もちろん、塩化ビニール類は、おもちゃ、ラップ、水道管、壁紙、建材など日常生活でとてもたくさん使われる「便利」な素材です。しかし、ダイオキシンの発生原因として考えるならば、塩化ビニールを使わない生活づくりを考えた方がよいのではないでしょうか。


参考:『ダイオキシンと環境ホルモン』天笠啓祐著(日本消費者連盟発行)
   『ダイオキシン』宮田秀明著(岩波新書)
   『ダイオキシンが未来を奪う』河村宏・反農薬東京グループ(反農薬東京グループ発行)


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