ターミネーター技術
遺伝子組み換え技術を応用して、とんでもない技術が開発、アメリカで特許が認められ、国際特許の申請が行なわれています。
このターミネーター技術について、分かる範囲でまとめてみました。
【植物の種をめぐるあらそい】
多くの農家は、種屋さんから種や苗を買って畑にまき、育てます。葉っぱ(例:ほうれん草)、実(例:メロン、トマト)、根(例:大根)、種(例:大豆、米)など、作物の目的はそれぞれ違います。
ところで、農家によっては、伝統的な種を使っていて、次の世代の種を自分でとって、また、次の年にまいて育てる人もいます。昔はみんなそうでした。
今は、ほとんど、品種改良されて種屋さんから買うようになっています。それでも、買った種を植えて育ててから自分で種をとって、次の年にまくということも可能でした。
ところが、法律で、それは「種屋さんの利益にならないからやっちゃだめ」ということになりました。つい最近のことです。
さて、東南アジアをはじめ、日本や各国には伝統的な作物や自然に生えている植物があり、人間が薬や食用として利用しています。今、この植物の権利をめぐってぶんどり合戦が起こっています。
たとえば、A国で昔から伝統的に痛み止めに使っていた薬草があるとします。ある日、大企業Bの研究者がやってきて、サンプルを入手して帰っていきました。研究者は、痛み止めの成分を生み出しているのは、その薬草の遺伝子にあることをつきとめます(当たり前だけど)で、そのDNA配列(遺伝子の設計図)を明らかにして、知的所有権を申請します。
すると、B社はその薬用植物の販売や使用に伴って発生する利益を求める権利が事実上発生します。「伝統的に使っている人の利益ではなく、知的所有権をもっている人の利益を守る」しくみができています。
このふたつの国際ルールによって、種を使って大きな利益を生み出すことができるようになりました。
そして、このルールを守るために生まれたのが、「ターミネーター技術」です。
【ターミネーター登場】
「ターミネーター技術」この名前は、アメリカの環境保護団体RAFIが「植物遺伝子の発現抑制」技術に対してつけた名称です。
ターミネーターと聞けば、映画『ターミネーター』を思い出す人も多いでしょう。その通り、ターミネーターは植物の皆殺し技術です。
「農家の自家採取を不可能にする技術」
つまり、「種をまいて、育てて、実がなって、種をとる」ことはできるけれど、「とった種をまいても、発芽しない」という技術なのです。
こうなると、どんな状況でも、農家は、必ず、毎回、種屋さんから種を買わなければなりません。種屋さんにとってみれば、その作物が売れる作物である限り、農家は、その作物を作りたがるでしょうから、種が必ず売れることになります。
まあ、なんて都合のよい話でしょう。
この技術は、遺伝子組み換え技術を利用しますが、どんな植物に対しても適用できる方法です。
【ターミネーター技術のしくみ】
生命は、遺伝子の設計図によって形が生まれ、動きや機能が生まれます。私の目や髪の毛が黒いのに、別の人は金色の髪の毛や青い目をもっているのも、ちょっとした遺伝子の違いです。ほんのちょっと遺伝子がちがうだけで、人間とチンパンジーの差が出てきます。
さて、遺伝子はタイマーを持っていることがあります。分かりやすい例では、イモムシがチョウになったり、アサガオが花をつけるなんていうのがあります。ある時間、ある日数、ある条件によって、遺伝子にスイッチが入ったり、スイッチが切れることで、生命は刻々と変化しています。
このタイマーのことを「プロモーター」と言います。
このプロモーターと遺伝子を組み合わせて次の世代の発芽を止めます。
さて、ターミネーター技術に使われるのは次の遺伝子と、プロモーターと、ブロックです。
1抑制因子
2発芽するときにスイッチが入るプロモーター
3切り出し酵素遺伝子
4胚ができるときにスイッチが入るプロモーター
5ブロック
6毒素遺伝子
ここで、1+2+3がその順番でつながっています。
4+5+6がその順番でつながっています。そして、どちらも同じ種の中にあります。
1の抑制因子は、2のプロモーターが動くのを止める働きがあります。
5のブロックは、4のプロモーターが働いても、6に伝わらないようにします。
種屋さんは、種を農家に販売する時に、化学処理して、1の抑制因子を壊してしまいます。
すると、その種は、2のプロモーターが動き出し、農家が種を植えて発芽するときに、スイッチが入り、3に「動け」と命令します。
スイッチが入ると、3の切り出し酵素遺伝子が動きだし、切り出し酵素用の認識表示がついている5ブロックを切り取って、4+5+6を4+6の組み合わせに変えます。
さて、農家が植えた種は、育って種ができます。農家は種を収穫し、翌年、その種を畑にまきます。
すると、種の中では発芽をはじめる最初の段階として胚をつくろうとします。そこで4のプロモーターのスイッチが入り、6に「動け」と命令します。
6の毒素遺伝子は、毒素を作り、発芽しようとしている種自身に働き、自らを殺す、つまり、種は自殺してしまいます。
だから、その種は決して発芽することはありません。
さて、種屋さんは、自分が持っている種が自殺してしまっては、農家に売る種をつくることも、農家に発芽する種を売ることもできません。
そこで、1抑制因子があるのです。
化学処理をせずに種を畑にまくと、1の抑制因子が働きます。そのため、2のプロモーターが動くことはありませんし、3の切り出し酵素遺伝子も動きません。
だから、4の次の世代に胚ができるときスイッチを入れるプロモーターが動き出しても、5のブロックが働くため、6の毒素遺伝子は動きません。
毒素ができないので、次の世代の種は自殺することなく、発芽し、育つことができます。だから、この種を農家に売っても、農家からは「育たない」と文句をつけられることがないわけです。もちろん、売るときには、1を壊す化学処理を忘れてはなりません。
このしくみをもった1〜6までを遺伝子組み換え技術で、植物の中に入れてしまうことで、どんな植物にも応用できます。
この技術を開発したのは、デルタ・アンド・パイン・ランド社ですが、今では、農薬メーカーのモンサント社に買収されています。ちなみに、モンサント社は、薬品メーカーのアメリカンホームポロダクツ社と合併することになっており、また、穀物商社カーギル社の種部門を買収することにもなっています。
【「飢餓を救う」は、ウソでした】
さて、モンサント社といえば、遺伝子組み換え作物の種を農薬とセットで販売している大手農薬メーカー。除草剤ラウンドアップとセットでラウンドアップに耐性のあるナタネ、大豆などを開発しています。
そして、「農薬が少なくて済む」とか、これによって、生産性が高くなり、「飢餓救済にも役に立つ」などと宣伝したこともあります。
だから、「遺伝子組み換え技術は人間の役に立っています」と。
でも、このターミネーター技術に関しては、「飢餓を救う」とか、「世界の食糧のため」ではないことがはっきりしますね。
「種はもうかる、種でもうける」と、言っているようなもんです。
【ターミネーターや遺伝子組み換えは安全か】
遺伝子組み換え作物には、除草剤耐性や殺虫成分などの作物には入ってないタンパク質が含まれます。また、組み換え技術はまだ未熟な技術で、DNA鎖のどこに組み込まれるのかを制御することはできません。組み換えを行なったために、別の遺伝子が発現しても分からないわけです。アレルギーをはじめ、長期的にみて安全性が確保されているとは言えません。遺伝子組み換え技術を使うターミネーター技術についても遺伝子組み換えと同じ不安があります。
また、生態系に対する影響も不安です。すでに、遺伝子組み換え作物では近縁の作物に、除草剤耐性が生まれたりすることがあり、生態系での遺伝子かく乱が起こりやすいことが指摘されています。ターミネーターを含む遺伝子組み換え技術は、これまで自然界には存在しなかったしくみやしかけを遺伝子の中に組み込んでいます。
何が起こるか分からない、起こらないことを祈るだけです。
ターミネーター技術については、まだ、ほとんど知られていないだけでなく、資料などもありません、今後、増補、訂正していきます。
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