ONE HUNDRED PERCENT LUNAR BOY
スティーヴン・タニー
2010

人類が月にはじめて降り立ってから2000年、月はテラフォーミングされ、人類のもうひとつの生存圏となっていた。ネオンライトまたたくバロックゴシックな月の世界で、100%月世界少年のヒエロニムスは地球から来た「スズメの上に落ちてゆく窓」という少女に出会い、恋に落ち、そして法で固く禁じられた彼の目を彼女に見せてしまう。
100%月世界少年・少女とは、瞳に第四の原色と言われる色をたたえ、肉眼で世界を見れば「時間の航跡」を目にすることができるのである。そして、100%月世界少年・少女の目を直視した人は精神が一瞬ショートし、錯乱状態に陥ってしまう。そのため、月世界で希に生まれる100%月世界少年・少女は生まれたときから専用のゴーグルをつけて生きることが義務づけられている。もちろん、意図的に他の人に目を見せることは重犯罪となっているのだ。そして、時間の航跡が見えるだけでなく、ほかにも100%月世界少年・少女の目には特別な力を持っていたのだ。為政者は、人々は恐れていた。
ヒエロニムスは「スズメの上に落ちてゆく窓」の求めに結果的に応じてしまい、彼女を傷つけ、そして、100%月世界少年・少女を逮捕することに人生をかけているシュメット警部補に追われることになるのだった。
萩尾望都のSF漫画に「スターレッド」という作品がある。火星で生まれた子どもは世代を重ねるごとに瞳が赤くなり、超能力を増していくのである。その能力を恐れ、地球政府は人類の子孫である火星人を迫害する。存在しないと考えられていた唯一の第六世代の主人公の少女レッド・星(セイ)が地球で生きていた。火星人を極端に嫌う地球の司政官の執拗な追跡から逃れながら、レッド・セイは火星と人類を巻き込む大きなできごとに関わっていく。超能力ものであるが、とても芯のしっかりした読み応えのある作品である。
なんども読み返している。壮大なビジョンがそこにあるからだ。いい作品だ。
「100%月世界少年」も同様に人類が変異し、変異しない人類との間に起きる軋轢の物語である。同時に、少年と少女が出会い、事件が起きるなかでの恋愛や感情が描かれるヤングアダルトの作品でもある。だから構成はわかりやすく、種明かしも少しずつ物語とともに深められていく。もちろん本作は警察権力に追われる話であるが推理小説ではないので最後に読者にも隠されていたしかけで種明かしされるというタブーは関係ない。
SFファンタジー風味のあるヤングアダルト小説だと思って読めば間違いない。