FUGITIVE TELEMETRY
マーサ・ウェルズ
2021

「マーダーボット・ダイアリー」「ネットワーク・エフェクト」につづく。「マーダーボット」シリーズ3冊目である。主人公の「弊機」=「マーダーボット」とそのこれまでの活躍については割愛。おもしろいから読めばよいのだ。
本書は、中編の「逃亡テレメトリー」に短編の「義務」「ホーム それは居住施設、有効範囲、生態系地位、あるいは陣地」の3作品が掲載されている。時系列としては表題作は「マーダーボット・ダイアリー」と「ネットワーク・エフェクト」の間にはさまる話であり、「義務」は「マーダーボット・ダイアリー」よりも前の話であるが、少なくとも「マーダーボット・ダイアリー」のあとに読めば大丈夫。「ネットワーク・エフェクト」の後に読んでも大丈夫。とにかくまずは「マーダーボット・ダイアリー」を読め。話はそれからだ。
「逃亡テレメトリー」はSFミステリである。ロボット(アンドロイド、AI、ボット…)が出てきてSFでミステリといえばアイザック・アシモフの「鋼鉄都市」にはじまるシリーズを思い出してしまうが、「ロボット三原則」なんかのしばりがなくて、主人公自身が知性を持ち、つよい殺傷能力やネットワーク潜入能力を持ち、しかも人間の誰にも「統制」されていない「暴走ボット」なのである。人間は苦手。人間は嫌いではないが知っている人であっても触られるのは嫌、目を合わせて話をするのも嫌、まして知らない人と会話さえ交わしたくない人見知りの内向的な存在で、唯一最大の楽しみはネット空間上からダウンロードした膨大なドラマシリーズを見ること。なかでもお気に入りは「サンクチュアリムーンの盛衰」シリーズ。いったい何回くり返してみているんだろう。「弊機」がこのドラマを見始めるのは、ストレス回避なのかも知れないが。
さて、いろいろあって「自由」な立場を公式に認められる可能性の高い非法人政体のプリザベーション連合のステーションにて、政体の現指導者のメンサー博士の庇護のもと身分を隠さず過ごしているある日、極めて安全なステーション内で、極めてまれなことに殺人事件が発生した。メンサー博士はいろいろあってとある企業政体から命を狙われており、はたしてそれに関係するのかしないのか。一刻も早く真相を確かめるため、「弊機」は「警備コンサル」としてステーションの警備局に「協力」することになった。しかし、警備局側はそもそも「弊機」が「警備ユニット」として武器を体内に持ち、高度なハッキングテクニックを持っていることからいくらメンサー博士が安全を保障しても、ステーションの安全保障上の最大の脅威とみているわけで、そうそう「協力」して欲しくはない。「弊機」だって協力したいわけでもない。とはいえ、殺人は殺人。「弊機」の高い調査能力と推理力は、警備局のインダー上級警備局員やアイレン特別捜査部員にとっても役立たない訳ではない。ここに、いわゆる「刑事とロボット探偵の愛憎交ざったバディドラマ」がはじまることになる。しかもちょっと「ハードボイルド」もはいる。なんといっても「弊機」は暴力が入ってくると、自分の身の安全は二の次で簡単に死にやすい「人間」を救うので、「弊機」の存在そのものがハードボイルドなのだ。内気な性格もハードボイルド向きかも。
ということで、ひとつの殺人が単純な事件に終わるはずはなく、複雑な事件、複雑な容疑者、別件逮捕者、そして、意外な真犯人。
おもしろいぞう。さ、まずは「マーダーボット・ダイアリー」を読もう。