EIFELHEIM
マイクル・フリン
2006

アメリカの作家マイクル・フリンによるファーストコンタクトSFである。ジャンルとしては。原題のアイフェルハイムは中世以降永遠に完全に失われたヨーロッパの町(村)の地名である。そう、ファーストコンタクトの舞台は中世ヨーロッパの辺境の町。シュヴァルツヴァルトの森の中。1348年8月のその日、後にアイフェルハイムと呼ばれ、そして完全に忘れ去られることとなる上ホッホヴァルトの町外れの森で桁外れの雷のような音がした。それがすべてのはじまり。領主マンフレート・フォン・ホットヴァルトが遠くの戦争の出兵による不在の中、上ホッホヴァルトの聖カタリナ教会主任司祭のデートリッヒ神父は、城の駐屯責任者であるマックス・シュヴァイツアーとともに、現場に向かい、そこで、人ならぬ者達と、突然そこに現れたかのような不思議な構造物を目にするのだった。
巨大なバッタのようなその姿。彼らは悪魔なのか、それとも遠い異国の変わった人々なのだろうか。明らかに怪我をしたり、なかには小さな子供とみられる存在もいる。逃亡者なのか、盗賊なのか。しかし、聖職者として困っている人達を見過ごすわけにはいかない。敬虔なるキリスト教への信仰の深さとともに合理的精神、科学と哲学を学ぶデートリッヒ神父は恐れを持ちながらも、彼らクレンク人との接触と交流をはじめるのである。
さて、時は現代。統計歴史学者のトム・シュヴェーリンは、宇宙物理学者のシャロン・ナギーと長年ともに暮らしてきた。シャロンは宇宙の性質、光速度と時間と空間について新たな仮説と探求をし続けていた。そして、トムは、統計歴史学という地理地形や環境と人間の生息地(町や村や都市)の歴史的継続性を調べていた。そして、理論と外れて理由なく突然完全に失われた町アイフェルハイムの不在を発見する。中世に失われ、人間の生息適地であるにも関わらず現代に至るまで人が住まない場所。その理由や背景を調べるために過去の記録を集め始めるトム。やがてそこはかつてホッホヴァルトとしてあった場所だということが分かった。
13世紀半ば、それはヨーロッパを黒死病ペストが蔓延していた時である。ペストにより一度は完全に消えた町や村は多い。しかし、いずれも人口の復活によって再生している。アイフェルハイムだけはペスト禍のあともその地名さえ忘れ去られていったのである。
なぜそうなったのか。トムは少しずつ真相に近づいていく。
平行して、たまたまシャロンの研究も深まっていく。
物語は、1348年8月のファーストコンタクトから1349年7月までのわずか1年間。最初の交流にはじまり、領主の帰還、新たな交流、信仰と科学、戦争と疾病など、中世ヨーロッパの日常を織り込みながらクライマックスへと進む。
決して交わることのない中世と現代の物語。
異星人の登場するSFであるが、それ以上に、丁寧に書き込まれる中世社会の日常風景や現代と中世の価値観、行動規範の違いに引き込まれる。圧巻は、後半のペストの描写である。いやあ怖い。ペスト怖い。
中世は決して蒙昧な暗黒時代というわけではなかった。
その当時の知識や探求の中で、たとえ現代では荒唐無稽であっても、合理的で科学的な行動をしようとする人達もいたわけである。
外部者であるクレンク人がクレンク人の価値観を通してみた中世社会。
現代人がはるか時間を超えて残った資料からみいだした中世社会。
一気読みはできないけれど、じっくり堪能した小さくても壮大な物語だった。