巨神計画

巨神計画
SLEEPING GIANT
シルヴァン・ヌーヴェル
2016
 映画「パシフィック・リム」が公開されたのは2013年のこと。巨大ロボットといえば、映画「トランスフォーマー」は2007年からのシリーズ。もともとが1980年代にはじまっている。「ガンダム」や「エヴァ」など日本の巨大ロボットはアメリカ、ヨーロッパなどでも人気がある。しかし、SF小説としてはどうにも分が悪くなかなか本格的なSFとしては存在していなかった。「ガンダム」のインスピレーションともなったハインラインの「宇宙の戦士」のようなモビルスーツがせいぜいである。というのも、巨大ロボットは戦闘上でも建造上でも無理があるからだ。その重量、機動性から巨大さは宇宙空間においても地上においてもあまり意味を持たない。畏怖心を起こさせる神話性ぐらいである。
 巨大ロボットを出すとSFの設定がとたんに陳腐に思えてくるのだ。
 ところが、奇しくも2016年に発表された「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」と「巨神計画」は巨大ロボットをモチーフにした作品となった。前者は第二次世界大戦で日本とドイツが勝った世界における大日本帝国の巨大ロボットで、扱いにくい兵器であった。続編ではちょっと「エヴァ」っぽいロボットと伝統的巨大ロボットのロボット大戦的にもなったが、それを歴史改変ストーリーで押し通したところがある。
 本作のシリーズでは、巨大ロボットは人類の製造物ではない。それは遺跡として現代の地球に現れる。明らかに人類の科学技術力を遙かに上回る存在の手になるものだ。
 ローズ・フランクリンは、幼い頃、自転車で山の穴に落ちてしまう。そこには巨大な手が眠っていた。長じてローズは物理学者となり、アメリカ政府の秘密の機関に求められ、巨大な手の研究と他のパーツを探し、ロボットを完全体にするために働き始める。彼女の妄執ともいうべき執念と、このプロジェクトを支える謎の存在インタビュアーによって徐々にパーツが見つかり、それとともに巨大ロボットプロジェクトは少しずつ注目を集めるようになる。アメリカ大統領と直接のつながりをもち、軍を秘密裏に動かし、他国の要人や権力などとも交渉できるインタビュアーとはなにものか、そして、このロボットのパーツはどこから来たのか? 細かい部品が見当たらず他の部品とは断面同士を接することでくっついてしまう、エネルギー源さえわからないこのロボットは果たして動くのか? 動くとしたら、どうやって。ロボットパーツ探しと、操縦方法探しという物語と、未知の科学技術の存在に気がついた各国の動きが物語の軸となりおもしろさを醸し出す。
 第一、ロボットが簡単には動かない。物語の後半ではそれなりに動き出すのだが最後までロボットが持っていると考えられる本来の能力を発揮するわけではない。
 日本のロボットアニメで発掘ロボットと言えば「イデオン」がある。あれはイデオンそのものが巨大宇宙船で変形して巨大ロボットになるが、やはり使い道がよく分からず乗船クルーがえらい目に合う。それに近い設定だがそもそも駆動系が見当たらないロボットなので調べようにも調べようがない。頭が見つかって、操縦系と思われるヘルメットや操作盤があっても、誰でも動くというわけでなく、理由は分からないが特定の人物のみが動かすことができるロボット。動かすまでにとても時間がかかるというところは、決してアニメや漫画ではできない設定だ。パーツを集めることと、どうやって動かすか、がストーリーの本筋なのだ。それを読ませるのが小説のおもしろさ。
 異星人が出るわけでもなく、主人公のローズやパイロットになったメンバーが四苦八苦する姿や人間関係をひたすら読む。サスペンス仕立てで、インタビュアーによる登場人物のヒアリング記録として紡がれる。少し突き放したような展開が、読み手を飽きさせない。
(2020.08)

火星無期懲役

火星無期懲役
ONE WAY
S・J・モーデン
2019
 火星ものに目がない。最近では、アンディー・ウィアーの「火星の人」(映画オデッセイ)が良かった。実にいい。有人火星探査ミッションのひとつで到着後突然の砂嵐に襲われ、ひとりをロスト、センサーが途切れ、死亡したと判断し、やむなく置き去りにして緊急待避、ミッション中止しての帰還を選んだ。ところが、センサーは壊れただけで、怪我はしたものの生きていて、なんとか基地にたどり着き、手元にある資源を利用して生き延び、地球との交信を果たし、帰還の可能性を求め続けるというもの。「火星にひとりぼっち」である。
 イギリスの出版社が、この成功に目をつけ、火星を舞台にした作品を書いてくれないかと中堅SF作家にオファー。そうしてできあがったのが本作「火星無期懲役」である。原題は「一方通行」。こちらは「火星への片道切符」である。
 火星への有人探査ミッションが計画された。しかし、予算は厳しい。
 現在の延長にある新自由主義下の世界で公共サービスの多くは民営化されている。
 当然、刑務所も民営化されている。現代の日本でも民営化された刑務所はあって、政府にとってはコスト、企業にとっては利益に変わっている。
 宇宙開発は、かつて政府が計画、運営していた。しかし、いまや政府が計画し、運営の多くを民間に頼るようになっている。アメリカはスペースシャトルのあと、軍を除いては自前の有人宇宙船を持てず、スペースX社頼みだ。この延長上で火星有人探査を考えたら、どこまで民間企業に頼れるだろうか。ふつうに考えれば、優秀で金のかかった探査クルーが、火星に到着してから先に投下してある物資を使い、生存のための状況を整え、滞在基地を建設し、科学探査に取り組むだろう。しかし、もし、優秀で金のかかった探査クルーが火星に到着したらそこに基地があり、すぐにでも科学探査に取り組める状況になっているとしたら、より効果的効率的ではないだろうか。
 そこで、ある民間企業が事前建設計画を提案し、採択された。
 とはいえ、民間であっても、火星までの往復費用は巨額であるし、建設には大きなコストとリスクがかかる。動くお金は巨額であるが、利益を確保するにはそれだけ効率的なコストカットも必要だ。第一考えてみたら、通常通りに科学クルーが建設するのなら1回で済むところを、建設のためのロボットを送るのに追加のコストがかかるのだ。
 しかも、ロボットはメンテナンスが欠かせない。壊れたら元に戻らない。
 では、人間ではどうだろう。それでも、科学クルーとは別に建設クルーを送るのだから、相当のコストカットがないと利益は出せない。
 いやいや、民間企業が運営している刑務所には、様々な技能をもつ受刑者もいるだろう。殺人罪などで一生刑務所から出ることが許されない受刑者の中には、ある程度の自由と引き換えに火星に行くものもあるだろうし、行かせるようにしむけることも可能だろう。
 受刑中の自由という動機があれば、そして、落後すれば最悪の刑務所に送られるという動機があれば、厳しい訓練にも真剣に取り組むだろう。なぜなら、彼らは受刑者だから。
 そうして選別された7人の受刑者たちと1人の管理者。火星の基地建設というミッションをこなしながらも1人ずつ死んでいく。それは事故か、殺人か?
 息子のために殺人をおかした建設のプロ・フランクが、火星という極限の状況の中で生き残り、真相を明らかにしようとする。
 これぞ、火星SFである。
 SFサスペンスでもあるが、火星という生存不能でも条件を整えれば過ごせる環境をいかした作品。イギリスの作家らしいブラックユーモアやちょっとペシミスティックな仕上がりが火星にぴったり。いい、実にいい。
(2020.08)

星間帝国の皇女 ラスト・エンペロー

星間帝国の皇女 ラスト・エンペロー
THE COLLAPSING EMPIRE
ジョン・スコルジー
2017
 ジョン・スコルジーは安定のおもしろさ。基本的なとんでもないアイディアをぐいぐいと押してストーリーに仕立て上げるプロ。今回は宇宙の人類帝国もの。これまでも光速を超えた銀河規模の人類世界は多くのSF作家によって書かれてきた。その宇宙の帝国ものは大きく二つに分かれていて、ひとつは異星知性体や非人類生命体などが登場し、もうひとつは人類およびその派生体のみでできた世界である。こちらはすくなくとも本作の限りにおいては後者。人類の宇宙、人類の帝国である。そして人類は大きくは変異していない超未来の話。
 世界を統べるのは「相互依存する国家および商業ギルドの神聖帝国」インターディペンデンシーの皇帝。現皇帝アタヴィオ六世はその死の間際にいた。後継となるべき皇太子は不慮の事故で死に、皇室から遠く離れて暮らしていた皇女カーデニア・ウー=パトリックが急きょ帝国の中心惑星ハブに招かれ、次代の皇帝となる準備をしていた。
 この世界はフローと呼ばれる簡単に言えば「別の時空を流れる川」によってこの時空では超光速に見える移動が可能となっている。しかしフローには出口と入口があってその近傍のみにしか人類は移動することができない。フローの両端に惑星や恒星系と惑星を利用したコロニーが形成されそれらが相互依存の形で数十億の人類を支えている。フロー間の移動もまた、2週間から9カ月かかる。そして、地球は人類にとっては失われてしまった世界。
 帝国は、皇帝とその軍、各星系ごとの独立した国家であり、それを支配する得意分野を定められた公家の権力によって成り立っている。その基盤は皇帝の議会、相互依存の鍵となる商業ギルド、そして、一般の人たちの心のよりどころである教会であり、それらの3つの権力中枢と皇帝を結ぶのが幹部委員会である。複雑な権力構造、複雑にいりくんだネットワーク社会。
 そこに皇帝になんかなりたくなかった皇帝が誕生し、そして、この世界の危機を知る。先帝が学友のフロー物理学者から指摘されたフロー世界の危機。フローが安定さを失えば、この相互依存ネットワークが壊れ、それは人類滅亡の危機にさえなりかねない。
 権力闘争の陰謀のなかで、若き皇帝はどう立ち向かうのか。
 はじまり、はじまり。
 ダン・シモンズの「ハイペリオン」シリーズにも似た設定だが、ストレートな人間ドラマであり、エンターテイメントである。
 次を早く! 早く次を!

レッド・ライジング2 黄金の後継者

レッド・ライジング2 黄金の後継者
GOLDEN SON
ピアース・ブラウン
2015
 三部作シリーズものの2作品目。最近は2作品目のオチが3作品前提で「そこで終わるの?」というものが多いような気がする。
 もともと火星ものSFに目がないので手に取っているのだが、2作品目になって、ますます火星ではなくなっていく。最初の舞台は宇宙戦艦で、そこから月、そして火星などなどに向かう。主人公は、ダロウ・アウ・アンドロメダス、別名リーパー(刈り手)。火星総督オーガスタ家の槍騎兵として契約し、将来の後継候補としても嘱望されている支配階級ゴールドの若者である。しかし、その実体は、少年時代の終わりに、若き妻を殺され、ゴールドへの復讐と火星の政治体制の転覆を目指す最下層階級レッドのダロウである。アレスの子どもたちと呼ばれる反体制集団によって人体改造と厳しい訓練、新しい身分を手に入れ、エリート養成校で勝ち抜き、火星総督オーガスタ家の元で艦隊司令候補として最終テストを受けていた。
 しかし…。
 ということで、月に居を構える人類社会の皇帝、オーガスタ家をはじめとする有力ゴールド族同士の策謀、陰謀のなか、火星と人類社会の覇権をかけての争いがはじまろうとしていた。そんななか、ダロウは仇敵のオーガスタ家の元で、火星の解放を思いながらも、その権力闘争の真ん中に巻き込まれていくのだった。
 知恵と戦略、仲間を作る能力に長けたダロウの行動は、帝国内部の権力闘争を激化させていく。激しい戦闘と策謀。ダロウは禁じ手を使う。ゴールドにしか認められていない武器や立場を一時的であれ他の(下の)階級の者に使わせるのだ。それは信頼の証であるととともに、ダロウに疑いの目を向けることになる。ダロウの他者への信頼が勝つのか、確固とした社会制度の中に生きる人たちの価値観が勝つのか。勝利は誰の手に。
 SFのジャンルのひとつ、スターウォーズ(帝国)ものである。舞台が太陽系と少々手狭だが、現在の科学知識を使いやすいのでリアリティはだせる。
 超未来の話なので、人類は生き残りのために遺伝子改造を受け、種族ごとに役割分化した階層社会となっているわけだが、基本的な人間の属性は現在の私たちと変わらず、さまざまな欲望に満ちている。それゆえに分かりやすい物語であり、映像化もしやすいのだろう。しかしいまの分断に満ちた世界で分断が固定化された物語は受け入れられるのだろうか?
(2020.08)

レッド・ライジング 火星の簒奪者

レッド・ライジング 火星の簒奪者
RED RISING
ピアース・ブラウン
2014
「火星」と名前がついていると手を取ってしまう癖がある。火星は太陽系でもっとも身近でテラフォーミング可能性の高い惑星だからだ。太陽系には、地球と似た惑星が2つある。金星と火星だ。金星は太陽に近く、その熱の処理が難しい。火星は太陽から遠く、熱が足りない。しかし、薄いながらも大気があり、水があり、生存可能性が高い。もうひとつ、木星の衛星エウロパなども生存可能性はあるが、人類にとって火星こそがもうひとつの地球となりうる惑星なのである。2000年代になり、火星探査が本格化すると、その知見を生かした新たな火星像に基づくSF作品も増えてきた。ますます火星がおもしろくなる。
 時ははるかなる未来。舞台は火星。階級化された世界。最上位はゴールド、最下層はレッド。実際にゴールドは金の肌を持つ支配層。レッドは火星の地下でヘリウム3を採掘する。地球由来のアナヘビの襲撃と、ガスポケットを抜いた爆発におびえながら、ドリルを使い深層を掘り進む。主人公はレッドの若者ダロウ。新婚のドリル・ドライバー。レッドに事実上定められた貧困の中で、新婚の妻イオを食べさせること、親族を食べさせること、氏族の名誉を守ることのために生きている。
 やがて、ダロウは自らの不名誉とともに惑星の真実を知る。火星のテラフォームはすでに終わりレッドは支配階級のために奴隷とされていたのだ。
 ダロウは革命を求める秘密結社に見いだされ、この世界を変えるため、そして復讐のために、ダロウはレッドから肉体改造によりゴールドに変わり、偽りの身分を得て、ゴールドの若者のためのエリート養成校に入校した。ここを勝ち抜き、時代の艦隊司令候補、惑星総督候補となるために。
 ゴールドの中でもエリート中のエリートを自認する名家の若者たち。いくつかのチームに分けられ拠点を守り、唯一の生き残りチームとなるよう放置される。まずはチームの中でリーダーとなるために、そして、他のチームを追い落とすために、あらゆる策謀、陰謀、連携、野合、友情、愛情、暴力、脅迫、裏切り、信頼の行為が行われる。ダロウもまた、強い意志を持ってこれを切り抜け、トップエリートの道をめざすのであった。
 黒いハリーポッター。
 おもしろいけど、火星である必要はなかった。
 続編もある。
(2020.8)

われらはレギオン3 太陽系最終大戦

われらはレギオン3 太陽系最終大戦
ALL THESE WORLDS
デニス・E・テイラー
2017
 3部作の3部です。1作目、2作目を読んでいない人は、そもそも読んじゃだめだし、3作品は一気に読みなされ。まあ、日本語のタイトルがあれだけどね。「太陽系最終大戦」もうミリタリーSFかと思うじゃないの。まあ、その要素もあるけど、ミリタリーというよりやはりスペオペだし、太陽系は、ストーリーのごくごくごくごく一部にすぎないのよ。
 敵はマクロスの巨人属です。ゼントラーディですね。彼らが大きいかどうかは分かりませんが、彼らアザーズの宇宙船は巨大です。ゼントラーディも真っ青です。
 さて、ボブの物語であることは変わりません。主人公はすべてボブです。いろんな名前のボブが出てきますが、ボブはボブ。タイトルは、BOB are BOB でいいのかも。
 ちょっとアザーズにちょっかいかけちゃったら怒っちゃってねえ。本気出してくるんだもん。なんとかしなきゃ。
 とりあえず、地球人類の他星系で居住可能そうな惑星への移住ははじまった。2つの兄弟惑星に少しずつ少しずつ移民を送り出して、人類の可能性を広げようとするボブ。遠い子孫にも会ったし、惑星デルタのまだ若き種族とも長い付き合いになってるし。
 アザーズに滅ぼされかけている状況で、ボブによってごくわずかの人数だけを助けることができた異星種族もいるし。(おお、彼らの居住惑星も探さねば)。
 とにかく、アザーズがボブと人類世界を攻撃する前に、準備態勢を整えなければ。
 そして、この宇宙の大侵略者をなんとか食い止めなければ、この銀河宇宙にアザーズしかいなくなるかもしれない。(ま、この銀河宇宙にボブしかいなくなるかもしれないけどね)。
 相対論的な時間軸と、ル・グィンのアンシブルのような相対論を無視した通信手段の確立により、ボブはスペオペらしい作戦を立案し、そして実行をはじめるのだった。
 もう「レンズマン」だし、「エンダーのゲーム」なのだ。
 そして、ボブはボブなのだ。いったい何人のボブが出てきたのだろう。
(2020.4)

われらはレギオン2 アザーズとの遭遇

われらはレギオン2 アザーズとの遭遇
FOR WE ARE MANY
デニス・E・テイラー
2017
 はい、3部作の2作目ですね。紹介し難いですね。本書は「古きよき、スペースオペラを愛するすべての人々に捧げる」と書いてありました。そうですね。古き良きスペオペで銀河系をまたぐといったら、「レンズマン」「スカイラーク」「スタートレック」「スターウォーズ」「宇宙の戦士」あたりがぱっと頭に浮かびますね。
 さて、2作目ですからね。1作目を読んでいない人は、すぐに目をつぶってくださいね。だめですよ。ネタバレとか怒っちゃ。
 ボブはいっぱいいますね。地球はこわれかけていて、生き残った人類は、せっかくやってきてくれたボブになんですぐ助けないんだとお怒りです。そんなこといったって、全員よその生存可能な星に連れて行くには足が足りない。ボブも足りない。資源も足りない。太陽系の資源はすっからかん。生存エリアごとに相互に我先だと喧嘩はするし、食料は恒常的に足りていないし、人類が地球の敵だというテロリストは破壊活動やめないし、もうわやくちゃ。
 一方、人類で言うところの石器時代の入り口にいる異星人種をみつけたボブは、天敵に滅ぼされかけている彼らをなるべく介入しないようにしながら助けようと日々もがいている。
 ほかのボブは、ブラジルの攻撃的AIにやられたり、なんとか対策を練ったり、狙われたり、狙ったり。テラフォーミング可能な惑星を気長にテラフォーミングはじめたり、遠く旅をしたり。
 そして、資源が根こそぎなくなっていて、そして、文明が完全に破壊され、それなのに、そこに生きていたであろう異星人の死体などが見当たらず、惑星は荒廃している不自然な惑星を見つけたり、して、それは、明らかに、別の強大な宇宙航行文明に破壊された跡で、どうみても、資源を集め、食料を集めているとしか思えなくて、つまり、ボブと、ボブが見つけた惑星と異星種族と、地球と、人類にとっての危機になるの、だ、と。
 宇宙に出始めたばかりのAIボブ。多くなったといってもたかが知れている。
 相手は、無慈悲で強大な敵。みつかってはいけない。しかし、やがて遭遇するだろう。そして、地球が見つかれば、せっかく助けようとしている人類が壊滅。
 ひいいいいい。
 しかし、AIボブたちはあきらめない。
 弱い人類が強大な宇宙種族の敵の前に戦う。おう、古き良きスペースオペラよ。
(2020年3月)

われらはレギオン1 AI探査機集合体

われらはレギオン1 AI探査機集合体
WE ARE LEGION (WE ARE BOB)
デニス・E・テイラー
2016
 物語は2016年にはじまり、2188年で一旦中断する。3部作なので、別々に書くのはどうかと思うけど、しかたない。自主的な慣例に従い、1冊ずつ書いていこう。3冊一気読みしたけど。
 原題の括弧内にある「我らはボブ」が本当のタイトルです。ボブが出てきて、登場から117年後の2133年にAIボブとして再生。AIボブは宇宙船となって人類の移住先を探しに(ひとり)宇宙に旅立つのであった。で、(ひとり)ではいろんなことができないので、AIボブは自分を増やすことにする。そのための資源や準備は用意されているし、増やすための金属などの元素は、宇宙空間で惑星・小惑星などを見つけて集めて回収する。目的が、人類が生存に適する惑星探しなので問題ない。やがてAIボブは、AIボブを呼ぶ。ボブ2では味気ないのでボブ2はライカーと名乗る。ボブ3はビル、ボブ4は、5は、ボブ2のクローンはボブ??。宇宙にボブがいっぱい。ところで、AIボブはコピーするたびに、ちょっとだけ性格や嗜好が異なっていく。記憶や基本行動は変わらないけれど、分岐時点でちょっと変わるし、その後の行為は並列化されないのでボブはボブにしてボブにあらずなのだ。
 AIボブはアメリカだけど、そのほかにも宇宙を目指す国や宇宙船はあって、ブラジルのAIは軍人で融通が利かず、すぐ攻撃してくる。困るね。
 だが、AIボブはちょっとしたものだった。まず、前世の仕事がプログラム会社の社長で、ばりばりのSFおたく。つまり、プログラムが書けて、SF的な状況に適応できて、小さな事業から大きな事業まで管理、運営、経営もできちゃう。殺人とか軍とか攻撃とかは大嫌いだけど、やるべきことをしっかり見つけて、楽しみながら目的に向かって進む。一度死んでいることを自覚しているから、死も怖くないし、ボブが増えていくことにも嫌悪感はない。何人かお互いに相性が悪いボブもいるけれど、総じて、別のボブとはうまくやる。合わなかったら離れればいい。宇宙は広い。
 それぞれのボブの興味や性格が異なるから、お互いに分業もできるし、その成果は相互に役立てる。時間は無限にある。もちろん、滅びかけている人類はなんとか救いたいし、お互いに離れると相対論的な途絶感はあるけれど、まあ、ボブにはそれを解決するための時間と能力だってあるんだ。
 だって、無敵のAIだから。
 作品としては、「歌う船」の系譜もあり、伝統的スペースオペラにラリー・ニーブンのようなSFおたくくすぐります作戦ものっかっていて、にへらっと笑ってしまう。
 荒唐無稽といえば荒唐無稽なのだけれど、しっかり読ませてくれる。
 まだまだおもしろいね、SF。
(2020年3月)

楽園の崩壊

楽園の崩壊
THE OUTCASTS OF HEAVEN BELT
ジョーン・D・ヴィンジ
1978
「琥珀のひとみ」は読んだ記憶がある。サンリオ文庫からでている「楽園の崩壊」をようやく手に取った。もちろん古書としてである。作者のジョーン・D・ヴィンジは女性で、ヴァーナー・ヴィンジが男性。ふたりの関係は、ジョーンの最初の夫がヴァーナーということ。ヴァーナーの作品はたくさん読んでいて、とても気に入っている。調べてみたところ、ジョーンは「雪の女王」で1981年のヒューゴー賞をとっているし、「琥珀のひとみ」でも中編賞をとっている。また、スターウォーズ、砂の惑星、マッドマックスなど、映画のストーリーブックの著者として80年代アメリカではよく知られていたようである。
 本書は、どことなくアーシュラ・K・ル・グィンのアンシブル世界にも似ているが、それよりももうすこし悲惨な植民星系を舞台にしている。アンシブルも超光速もない、化学ロケット、核ロケット、そして、ラムスクープ船の世界。
 モーニングサイドと呼ばれる不安定な星系の住民たちの危機を救うため、なけなしの資源をつかいラムスクープ船をしたて3光年先のヘブン・ベルトを目指して長い旅を続けてきた宇宙船レンジャー号は、星系内に入るなり、化学ロケット船からの攻撃を受け死傷者を出す。
 ヘブン・ベルトは内戦により崩壊した首都惑星ランシングと、わずかな資源をもつグランド・ハーモニー(ディスカス)空域、わずかにもそれなりの社会を維持しているデマルキー空域の各小惑星が分裂し、協調を失ったまま、滅びの道をたどっていたのであった。
 レンジャー号の船長ベサ・トルギュッセンは、ランシングから資源を求めて飛び立った回収船ランシング04号の二人の若者がレンジャー号に侵入したことから、この二人を通じて、星系の実態を知り、モーニングサイドに戻るための燃料となる水素を求めて一計を講じる。しかし、ディスカス、デマルキーの人々は、星系外から訪れたラムスクープ船とその技術こそ星系再生の鍵を握るとして、レンジャー号の確保に乗り出す。
 これだけ書くと、スペースオペラっぽいけれど、全然違う。書かれているのは、モーニングサイドの人々が生み出した社会と思想、生き方、そして、崩壊したヘブン・ベルトのそれぞれの状況に置かれた人々が生み出した社会と思想、生き方のぶつかり合いであり、それを象徴する個人を通じて考える、個人とは、社会とは、家族とは、という問いであった。
 あと書きの解説にもあるが、当時は、ル・グィンをはじめとして女性SF作家が次々と頭角を現し、フェミニズム運動ともつながる思想や社会をSFの舞台で提起し、実験していた時代である。本作品も、時代背景を考えると、女性船長をはじめ、女性の立場や役割がとても重要な要素をしめている。それだけではなく、経済、社会、家族について、いくつもの提示がある。しかし、どの社会についても、それぞれに外部から見れば問題があり、正しい社会などないのではないかという疑問も、その底には見える。それでも、個人としてできること、正しいこと、やり遂げたいことを人は求め、動くのだ。
 そこには、殺すより殺さない方向で、壊すより、生み出す方向で人は動くことができるという希望も込められているように思う。
 旧世界=旧地球を離れ、厳しい外宇宙の世界で人類が生きる上で獲得しなければならない思想や社会はどのようなものだろう。そういう問いは、70年代も、2020年代も、そう大きくは変わらないのだ。
(2020.02)

プロテウスの啓示

プロテウスの啓示
SIGHT OF PROTEUS
チャールズ・シェフィールド
1978
 初読。好きな作家のひとり。しっかりした科学知識をふまえ、荒唐無稽大言壮語の物語をみせる。科学者であり、SF作家であり、どうやら面倒見もよくて、社交的であったようである。
 本書は最初期の長編である。舞台は22世紀の地球。人口は140億人を超え、世界は経済格差に分断されている。宇宙開発は太陽系に広がり、そして人間は整態技術により自由にその姿を変えられるようになっていた。
 考えてみたらいい。お金と形態を昆虫の変態のように変異させるためのしばらくの日数さえあれば、想像のつく限りの、デザインされた形態になれるのだ。えら呼吸で海を泳ぐことも、深海に潜ることも、滑空することも、チーターのように走ることも、象のように巨大になることも、そして、宇宙空間で活動しやすい形態をとることも。藤子不二雄の「怪物くん」やカフカの「変身」どころの騒ぎではない。
 もちろん、俳優や歌手などと同じような姿形になることもできるだろう。ゴジラやウルトラマン、仮面ライダー、ウルヴァリン、ポムポムプリン、どんな姿でも、生物体であればその形をとることができる。物理法則と生物のしくみによるものなら付加機能もつけられる。蜘蛛の糸、毒蛇の毒、サイの角、カニのハサミ。
 私は想像力に欠けた人間だから、せいぜい光合成のできる皮膚か髪の毛があればいいと思う。そういえば、「光合成だけで生きていきたい」という歌がラジオから流れていた。そんな21世紀に生きている。でも、光合成だけで生きるのはいやだなあ。動物としておいしいものをたくさん食べたい。食べても食べても太らないというのも困る。食べたら食べたなりの因果応報。カロリーを消費しなければ太るのだ。ああ、一度、さらさらヘアになってみるのもよいかもしれない。あと、視力がよくなるといいな。でも、これ以上目が大きくなるのは困る。目が大きいのだ、私は。別にコンプレックスでもないし、たいして形態を変えたいとも思わない。
 でも、「プロテウスの啓示」の世界での人は違う。
 合法、違法を問わず形態を変えたがる人たちが多いのだ。
 ところで、作品の内容とも関わるのだが、たとえばカメレオンやある種のタコのように体表の色を自在にコントロールする形態が身につくとしよう。それが液晶画面のように複数の色素の集合体になっていて、ものすごい勢いで各単位を自由に変えることができ、それを認識する目(受容体)をもっていたら、高速で情報を送受信できるのではないだろうか。2台の大画面液晶モニターがあって、合い向かいになっていて、ミリ秒単位で相互に情報をやりとりするのだ。そうなると、言葉よりもはるかに密度の濃い情報のやりとりができる。しかし、そんなに情報を短い時間で大量にやりとりする必然性ってなんだろう。
 と、インターネットを使い、動画やデータのやりとりを高速で行いながら考え込むのであった。
 本書「プロテウスの啓示」の話に戻ろう。といっても、書けることはあまりない。
 ジョン・ラーセンとベイ・ウルフは違法な整態技術適用者を探して摘発する管理局捜査官。あるとき、ラーセンは学生からIDの存在しない移植用肝臓を発見したとの情報を得る。この時代、人にはすべてIDがつけられており、そのデータがその人がどんな整態をしていても個人を特定できるようになっているのだ。この無IDへの操作は、コンピュータからのデータ抹消などどこかで妨害されていた。それを追いかけるうちに、事件に気がつくふたり。
 そして7年が過ぎ、新たな事件が発生する。小惑星帯から地球にリゾートに来た3人が海の底で、これまでに見られたことのない整態の変態過程で死んだままの状態で発見された。この事件は太陽系を巻き込んだ大きな事件に発展する。
 それは、太陽系の…。
 これ以上は書けない。
 とにかく、1部、2部、3部と、話が飛躍していき、最初のストーリーとつながっていてもかけ離れた時空の地平のかなたへ読者を連れて行ってしまう。
 初期の作品からこうなのだ、シェフィールドは。
 小道具は多少古くなっているが、いまでも十分読み応えのある作品であった。
(2020.02)