2312 太陽系動乱

2312 太陽系動乱

キム・スタンリー・ロビンスン
2312
2012

 2014年11月3日に読了。で今は、2015年6月。日々は過ぎる。分かりやすいねえ、2012年に出版された2312年の物語。あと300年後の世界。どんな世界でも、日々は疑似反復し、その中にも人生のすばらしさがある、ってもんよ。
 主人公はスワン・アール・ホンさん。アレックスって祖母がいて、水星の獅子って呼ばれ、水星の移動都市の人々をまとめ、土星系、木星系の人々とともに、地球との関係改善を模索していた中心人物でもあった。星系の人々が各居住衛星や惑星を移動するには、小惑星を改造した生活空間兼移動コロニーのようなものを使う。物語は、スワンとタイタンの外交官ワーラム、惑星間警察のジュネットを中心に金星社会、地球社会、そして、量子コンピュータの人工知能との関わり、スワンの求めていた人と人との関わりのあり方をめぐって進む。
 いろんな「小さな社会」が登場するが、何よりおもしろかったのは、惑星間を移動する際に使う小惑星に入ると、移動中は、たとえ外交官であっても役割がない。だから、そのコロニーに入ると、自分のできる短期の仕事をして、滞在費をまかなう。皿洗いだったり、調理だったり。それがあたりまえになっている。寿命は長く長くなっているから、「時間をうまく使う」こと、反復する日々をうまく生きること、を、人は身につける。楽しく、日々を反復し、そして、必要な時に、必要な集中力、交渉力、才能を発揮する。
 かつてアインシュタインが言った。物理学者は、日々、肉体労働をしながら思考をめぐらせればよい(意訳)、と。私もそうありたい。そういう社会でありたい。

 後書きにも書かれているけれど、著者の火星三部作の最後、「ブルー・マーズ」の翻訳、まだあ?

(2015.6.13)

大航宙時代

大航宙時代
QUARTER SHARE
ネイサン・ローウェル
2007
 ネイサン・ローウェルの第一長編で、作家デビュー作。アメリカ大陸を長距離トラックで輸送しているSF好きなドライバーがオーディオブックとして楽しむ。そこで人気が出て、紙の本になったそうだ。日本だと、落語になっちゃうのかな。
 長距離トラックのドライバーが好みそうな、大人のためのジュブナイル。古き良き自由経済のアメリカらしい作品である。
 2351年、ネリス星で物語は幕を開ける。惑星で仕事を持っていた母が事故で亡くなり、主人公のイシュメール・ホレイショ・ワン(18)は、90日以内に就職するか、惑星を退去しなければならなくなった。就職は無理。だってネリス星はネリス社しかなくて、未熟練労働者は不要。しかし、遺産では惑星を退去するお金には足りない。ネリス社に借金をして人生をはじめるか、軍に入隊するか、商船の船員になるか。選択肢はそれだけ。故に、船員になる道を選んだ。船員会館の受付の女性の紹介で、イシュメールは貨物船の最底辺の船員として乗り込む契約を結ぶことができた。
 彼の最初の仕事は司厨補助員。母親にみっちり仕込まれた「おいしいコーヒーをていねいに入れる技」で司厨長の信頼を得て、イシュメールは、星間商船のキャリアを積み始めるのだ。企業惑星を飛び出して、自由を!
 いろいろ書きたいことがあるような、ないような。
 コーヒーをていねいにおいしく淹れるには、まずコーヒーマシンをていねいに掃除することだ。汚れなし、澱なし。水もきれい。豆は挽き立て。そうして、おいしいコーヒーを人に出していると、人生うまくいくよ。
(2014.5.11、2015.6.3)

ブラインドサイト

ブラインドサイト
BLINDSIGHT
ピーター・ワッツ
2006
 基本的に吸血鬼ものは苦手だから、手を出さないでいたのが本書。宇宙もの、ハードSFだっていうから買って読むことに。「自意識って知性に必要?」ってお話しでした。読んだのが2014年4月で、今はちょうど1年後だけど、内容をすっかり失念している。また読まなければ、書けない。とほほ。自意識、知性の前に、記憶力がなくなってはね。
(2015.6.2)

火星の人

火星の人
The Martian
アンディ・ウィアー
2014
 私は火星ものに目がないのだ。そのままで生きることはできないが、月よりはまし。月よりはるかに遠い。いつか地球人が火星で暮らすことがあるのだろうか?
 火星ものの最新作はアンディー・ウィアーによる「月は地獄だ」の火星版。
「火星は地獄か?」月よりははるかに条件がいいね。
 ざっとおさらいすると、有人火星探査3度目のミッションが6日目で中止になり、あわてて母艦に戻るところで、マーク・ワトニー君は砂嵐で飛んできたアンテナが刺さって砂嵐に消えた。遺体収容をあきらめて母艦に戻り、地球への帰還をはじめたクルーたち。
 しかし、ワトニー君はかろうじて生きていた。ワトニー君、植物学者であり、メカニカル・エンジニアでもある。
 火星。月よりは条件がいいよね。しかも、まあ、なんというか最低限の資材は残されている。水は、まあ。酸素も、まあ。ないのは、食料。あと、通信手段がない。救援は、地球からしかこなさそうで、そのためには生きていることを知らせなければならない。ああ、通信したい。したい、したい。生きるために。
 ネタバレにならないよ。最初から、サバイバルはお約束。それを乗り越えて、読ませるストーリー展開。ワトニー君のスペースノートならではの前向きな姿勢。最高!
(2014.9.14-2015.6.2)

天国への門

天国への門
THE GATES OF HEAVEN
ポール・プロイス
1980
 妹の家に長年出張していた本。1983年に初版が出て、第2刷が12月。ということは、大学1年の冬に実家で買って読んで置いといたんだろうなあ。
 先日読んだ「アンドロメダのA」は1960年代で、はじめての電波望遠鏡(1機)からの話だったが、こっちはさすが80年代である。 幻に終わったサイクロプス計画が生きていることになっていて、時代は2037年となる。長年の異星知性探査計画は何の成果も得られていない。一方、宇宙開発は一度花開き、月やL-5(ラグランジュポイント5)にコロニーができたが、その後核融合技術により地球は再び内側に閉じこもるようになりつつあった。
 そうして、ついにその日が来た。何度も探査対象となっていたタウ・ケチからの通信が入ったのだ。わずか12光年先の恒星系からの通信。世界は興奮する。
 しかし、その通信は12年前にブラックホールに消えた船からの声だった。
 ブラックホールの性質の理解が間違っていたのか? どんな条件ならばブラックホールから抜けられるのか? タウ・セチ系には人類が居住可能な惑星があるのか? そうして、彼らは生きているのか?
 その謎を解き、救出するための作戦がはじまった。
 後半にいくほどストーリーがばたばたになっている。良い言い方をするならば、息もつかせぬ展開ってことでもある。今なら3倍の分量になりそうな内容でもある。
 さてさて。
 2015年である。書かれた時点よりも、書いてある時点に近くなってきた。
 そこには古い未来があり、果たされていない未来がある。
 想像以上に宇宙開発は進まず、月に最後に人類が行ったのはいつのことじゃったかのお。
 ISSの次は見通せず、書かれていることで、身につまされるのは気候変動(温暖化)ぐらいなもの。
 これから50年後、人類はもう少し宇宙に目を向けているだろうか?
 ちとネタバレになるが、異星生態系がちょっとだけ出てくるのよ。
(2015.5.31)

アンドロメダのA

アンドロメダのA
A FOR ANDROMEDA
フレッド・ホイル&ジョン・エリオット
1962
 初読。フレッド・ホイル博士のアイディア満載。
 1960年代後半、イギリスに世界初の電波望遠鏡が設置された。稼働初日、明らかに人工的な信号をキャッチした。結構強い信号だ。人工衛星や航空機ではない。アンドロメダ銀河から届いている信号は、繰り返し同じデータを流していた。
 第3次世界大戦前夜、軍は新しい情報と兵器を欲していた。
 仮想の敵が飛ばす飛行体を捕捉できても、それを落とすことさえできない現実、つのるいらだち。
 そこに登場するは、電波望遠鏡の解析システムを開発した低温物理学とコンピュータを専門とする科学者ジョン・フレミング。ジョンがデータを解析すると、今風に言えば、コンピュータの設計&OS&アプリケーション群&データであることが分かった。
 軍のコンピュータを利用し、新たなコンピュータを設計、そして、指定された計算をすることで、何かが分かるはず。何かがうまれるはず。
 暗躍するスパイ、政治、軍。
 くさるフレミング、なやむフレミング、高揚するフレミング、追い出されるフレミング、そして、解決するフレミング。
 で、こっから下の方はネタバレだからね。
 ちょうど同じタイミングで、ポール・ブロイスの「天国の門」を読む。電波望遠鏡で異星からのデータを受信する。人類の果てない夢のひとつである。ジョン・ヴァーリーの「へびつかい座ホットライン」、マイクル・P・キューピー=マクダウエル「アースライズ」など、多くの作品がある。逆に、人類のデータを送って、人類を異星人の手で復元してもらうなんてSFもあった。ドナルド・モフィットの「創世伝説」なんてのがそうだ。
 たしかに、データが正しく解析されれば、理屈の上ではも確実な宇宙旅行の方法だよね。
 データ化という理屈づけができたり、電波望遠鏡といったガジェットが登場したことで、真実味をもってこういうことが語れるようになったけれど、この思考の指向性は、もっともっと古くから人類の脳にこびりついているのではないだろうか?
 移動する衝動、移動する先に何かがあるという希望や期待、遠くに異人がいて会えるという希望や期待、新しい知恵や情報が遠くに行けば得られる、遠くから来た知恵や情報は使えるという確信。なんだろうね、この刷り込み。
 それは、たとえば、神や宇宙人ということではなく、やはり、解析可能なことではあるのだろうけれど。
(2015.5.27)
下にネタバレメモあり。
ネタバレのひとつ。
 コンピュータは、応答の中で、地球の生物、相手となる人類のことを学び、そして、人工生命を人類に作らせる。異星の知性コンピュータと連動した人工生命は人の似姿をとり、あたかも予言者として世に現れる。
 さて、フレミングはどうする?

レッドスーツ

レッドスーツ
REDSHIRTS
ジョン・スコルジー
2012
 ジョン・スコルジーといえば「老人と宇宙」。これはすなおなパロディだった。少年兵ならぬ老人兵。老人版「宇宙の戦士」そこからはじまり、きちんと「エンダー」の歴史を辿って、続編に別の仕掛けを用意してあった。
「レッドスーツ」は違うね。もちろん、あの「スター・トレック」
 新井素子です。メタSF。「絶句」読みました?いよいよアメリカSFも日本の80年代到来か?
 まあ、この1行で十分なんだけれど、ちょっと導入を紹介すると、アンドルー・ダール少尉は、銀河連邦の主力艦イントレピッド号に赴任することとなった。2453年、火星ドッグで建造、2456年から銀河連邦の旗艦で、2462年からの艦長はルーシャス・アバナーシー…。
 着任早々ダールは言った。「この艦にはなにかとんでもなくおかしなところがある」。
 スタートレック、スターウォーズ、そして、レッドスーツ!
 あああ、レッドドワーフでも同じようなシチュエーションコメディはあったけれど、「絶句」並にメタでメタメタだよ、レッドスーツ!
(2014年3月31日

世界を変える日に

世界を変える日に
THE TESTAMENT OF JESSIE LAMB
ジェイン・ロジャーズ
2011
 バイオテロにより、妊娠すると発症し女性が死ぬウイルスにほぼ人類が感染。エイズとCDS(狂牛病、クロイツフェルト・ヤコブ症候群)が混ざったようなやつ。あと1世代で人類は滅亡か? 世界はとたんに荒れ狂ってしまう。
 イギリスの高校に16歳の女性の一人称で語られる生と死の物語。SFのカテゴリに入れる必要はない文学としての作品であると思う。
 落ちを言ったところで、この作品の質が下がるわけでもないし、大落ちがあるわけでもない。「アルジャーノンに花束を」みたいな分かっていても感動、という話でもない。そういう意味でも文学的だ。まあ、文学ってなによ、という話にもなりかねないのだが。
 SF的な話をすると、「たったひとつの冴えたやり方」(ジェームズ・ティプトリー・ジュニア)と比較される要素がある。個人と人類の存在のどちらを優先するか、その究極の選択は是か非か、是とするならば、個の自己犠牲は、どのような状況で正当化されるのか、どのような社会的、あるいは、個人の内面として許されるのか。そういう物語である。
 作者のジェイン・ロジャースは、回避可能かつ、代替可能な究極の選択を選ぶ少女に対し、内面としての自己的な救済だけでなく、外的な救済を少しだけ用意している。それも、この物語をどう読むか、読者に判断をまかせることになるのだが、そういったことを書いているあたり、やはり文学なのだろう。
 この小説は、子ども達ではなく、今、究極の選択なき自己犠牲を強いる社会をつくり、そこに生きている大人たちが読んで、立ち止まって考える作品なのだ。
(2014.2.14)

戦いの虚空ー老人と宇宙5

戦いの虚空ー老人と宇宙5
THE HUMAN DIVISION
ジョン・スコルジー
2013
(TW)
 短編連作形式の長編っていう、テレビシリーズ方式。「その後」を描いた作品。特に感想はないが、外交は戦争を防ぐための最大の手段であるよなあ、という作品ということにしておこう。
 小説の仕立てとしては、13のエピソードにわけ、1エピソードと13エピソードは「拡大版」で前後編という、今の日本でもおなじみの連続ドラマ形式1クールとなっている。
 日本では、長編大作が売れなくなってきているようだし、そもそも小説が売れていない。一方、アメリカではどうなのだろう、たいていの作品が分厚い長編化しているようである。そういうマーケットが確立しているということなのだろうか。それはそれで作者は大変だろうと思う。そういう背景もあって、テレビドラマ形式が現代的様式美として成立するのだろう。これまでにも、たとえば、レイ・ブラッドベリの名作「火星年代記」のような短編連作はあったし、それぞれの短編をつなぐと長編になるというスタイルもあったのだが、明確に最初から「シーズン」「エピソード」と称して、テレビドラマ方式をとるというのはどのくらいあったのだろうか?
 さて、「老人と宇宙」の舞台は3冊のベースシリーズと1冊の外伝で十分なので、本作では、丁寧にその背景を描いたりはしない。本シリーズの後、地球とコロニー連合(以上人類)、コンクラーベ、非加盟エイリアン種属(以上、異星種族)が、それぞれの思惑でどのように動きだしたのか、主に「外交的手段」について語られるのが本作である。とはいえ、スコルジーなので、ミリタリー要素や、謎解き要素も満載。前シリーズを楽しめた人は楽しめること請け合い。
 個人的には、「付録」されている2作品のうち、「ハフト・ソルヴォーラがチュロスを食べて現代の若者と話をする」が好きだ。この短編を楽しむためには、全エピソードを読んで、異星種族のソルヴォーラについて知っている方がいいので、この「付録」だけを独立作品として読むと感想は変わってくるのだろうけれど、「戦争と外交」について、人間の子どもに向かって丁寧にかつ真摯に話をするくだりは、ちょっと嬉しくなる。
 ところで、あなたはチュロスが好きですか?
(2013.11.10)

シップブレイカー

シップブレイカー
SHIP BREAKER
パオロ・バチガルビ
2012
「ねじまき少女」は衝撃でした。
 化石燃料が枯渇し、気候変動で激変する自然環境の世界。それでも、人は生きていき、金を持つ者、金を持たない者は、それぞれにそれぞれの世界で生きている。時に両者はその関係を超えて邂逅し、新たな運命に出会う。
 特にそれが少年と少女の場合には。
(2013.9.6)