巨獣めざめる

巨獣めざめる
LEVIATHAN WAKES
ジェイムズ・S・A・コーリイ
2011
(TW)未来、太陽系、小惑星帯、人類の変容のはじまり、異星知性の影…。なのに、一番ひっかかったのが、主人公たちの大量の放射線被曝のくだりだったりする。現実が、空想科学小説よりも奇異なものになっているなあ。
 人気が出るシリーズものの1冊目は、たいてい、予感と期待をさせて終わる。本書「巨獣めざめる」もそんな終わり方をした作品である。
 舞台は遠い未来。150年ほど前に、地球と人類の植民地たる火星が一触即発の危機を迎えた後に、核融合エンジンが改良され、人類の版図は太陽系全体に広がった。土星衛星系に2000万人近い人口。木星衛星系には4500万人近い人口。天王星衛星に5000人が暮らす。小惑星帯には、5千万人から1億人が暮らしていると言われている。もちろん、地球と火星は二大惑星であり、常に緊張感をもつ。舞台は小惑星ケレス、エロス、そして、小惑星帯。主人公は、自分が乗船していた氷運搬船を破壊され、真実の追究と復習を願うジム・ホールデン副長と、本社を月に持つ大企業オーナーで家出した娘の「捜索」を任務に課された小惑星ケレスの民間警察組織の刑事ミラー。ふたりの道筋はやがて交錯し、事態は想像を絶する展開に。
 人類はどうやって太陽系に進出し、その次の段階に進むのか。
 その前に滅ぶのか。
 ねえ。
 本作品で、ミリタリーSFのような軍人や特殊な人たちを描くのではなく、普通の民間人としての日常と行動をベースに描こうとしていたといったことが解説で書かれている。
C・J・チェリイの「リムランナーズ」なんてのも、ちょっと近いような気がする。
(2013.6.3)

ウォークン・フュアリーズ

ウォークン・フュアリーズ
WOKEN FURIES
リチャード・モーガン
2005
(TW)オルタード・カーボンに続く、コヴァッチさんのハードボイルドシリーズ第3弾。第2弾だけが文庫ではないのだよなあ。本棚のそろいが狂う。独立しているから読めたけれど、やはり読むべきか。
 ということで、第2弾は文庫化されず、私もまだ読んでいない、と。
 なんだか、ずっと寝不足で読んでいるので、ときどき、何が何だか分からなくなる。
 よく考えると、コヴァッチさんの生まれ故郷での事件なんだよね。
 だから、幼なじみも出てくるし。
 生と死と、肉体と人格(精神・記憶)の意味が現在とはまったく異なっているので、気持ちがついていけないのだ。
 心落ち着いて、静かなところで読めばわくわくするのだろう。ハードボイドドなのは変わらない。
(2013.5.26)

オルタード・カーボン

オルタード・カーボン
ALTERD CARBON
リチャード・モーガン
2002
(TW)久々に本格的なハードボイドドSF。ちょっと登場人物構成が複雑で、寝不足の頭にはついていけないところもあったが、肉体と精神についてもちょっと考えさせられる品。
 転送された先は、別の肉体、別の惑星。元特命外交部隊エンヴォイ・コーズのタケシ・コヴァッチは犯罪を犯し、静止状態にされている。そして、クライアントの必要に応じて、必要な場所にダウンロードされる。別の肉体、別の惑星。肉体(スリーブ)は強化され、使い勝手も良い。時には人造スリーブに入ることもあるが、元々の人生を持つスリーブの方がしっくりはくる。顔にも体型にも慣れるが、いまがいつで、どこで、何を求められているのか、それはブリーフィングを聞くまでは分からない。
 今回の仕事は、地球。地球で一人の男が殺された。その犯人をつかまえて欲しい。依頼者は被害者。正確に言えば、バックアップの肉体にダウンロードされた、バックアップの人格である。ただ、バックアップには、前のバックアップから殺されるまでの記憶はない。
 なぜ殺されたのか、なんのために、だれが。富豪である被害者/依頼者バンクロフトの依頼を断ることもできず、彼は、にわか私立探偵となって、人類発祥の地、地球での事件に巻き込まれていく。
 ハードボイドドだ。
(2013.4.25)

最終定理

最終定理
THE LAST THEOREM
アーサー・C・クラーク&フレデリック・ポール
2008
(TW)おもしろかった。古き良きSFの巨匠たちの佳作。権力の縦構造が変わらないのは20世紀に生きた者の宿命か。
 フェルマーの最終定理は、アンドリュー・ワイルズ博士が1995年に証明したのだけれど、それはフェルマーの証明とは異なる手法で行われており、シンプルで美しい証明をすることになるのが、本書の主人公のランジット・スープラマニアンである。本書は、スープラマニアンの数奇な人生をたどりつつ、人類の未来を描いた、2大SF巨頭による「もう最後だし、書きたいこと書いてやれ」作品である。どこか、J・P・ホーガンの「創世記機械」を思わせ、クラークの「幼年期の終わり」をはじめ、様々な作品群を感じさせ、ポールの「ヒーチー年代記」や「マン・プラス」のにおいもする壮大な作品である。
 とはいえ、世界観や社会構造は、19世紀、20世紀型の縦構造のままであり、なじみやすいといえばなじみやすいが、近年の超未来、人類変容作品群などに比べれば、登場人物、異星人等の思考が古典的である。いや、批判しているのではない、クラークもポールも、期待された作品を提示しただけであり、同時に、読者および人類への「期待」を書いた作品である。しかし、それは、50年代、60年代のような安易な楽観主義や悲観主義とは異なり、現実の複雑さ、不合理さを知った上での提示であり、期待である。
 この後、2008年にクラークは死去。本書に書かれている宇宙エレベーターも、ソーラーヨットも実現されていないことには、きっとがっかりだろう。もうひとつ、オーバーロードとまではいかなくても、地球外知性、地球外生命の発見がされなかったことも、がっかりしているに違いない。でも、もしかすると、クラークは遠い将来に復活するのかな。もしかすると。
(2013.4.21)

任務外作戦

任務外作戦
A CIVIL CANPAIN
ロイス・マクマスター・ビジョルド
1999
(TW)今年はじめてのSF。というより、今年はじめての小説。ようやく読む時間がとれて、嬉しい。手始めは軽めのシリーズもの。今年はこれからいったい何冊読めるだろう。厳しいなあ。
 さて、マイルズシリーズ13作品目は、いよいよ皇帝の結婚とマイルズ卿の求婚。オールスターキャストのどたばたコメディとなっております。いいんだよ、ここまで読んだ人たちならば、楽しく、はらはら、後進惑星バラヤーの政治や観衆にも詳しいし、SFガジェットはほどほどに詰め込まれているし、ストーリーとして読みたいだけなんだから。
 そうそう、本作品ではバイオハザードが登場。生物は一度世界に放つと繁殖するからねえ。遺伝子操作してあとからしまった、って、ことになったりすると大変だよ。
(2013.3.31)

量子怪盗

量子怪盗
THE QUANTUM THIEF
ハンヌ・ライアニエミ
2010
(TW)三部作の一らしい。「ゴールデン・エイジ」(ジョン・C・ライト)を思い出す。あちらが、レンズマンなら、こちらはアルセーヌ・ルパンだが、主人公の怪盗、「ルパン三世」っぽいな。
 ポスト・シンギュラリティの遠未来人類を描いた作品。イギリスSFだけど、主人公はフランスの名怪盗ルパンさながら。内容がごりごりのポスト・シンギュラリティ、ヴァーチャルワールドもの。舞台は主に火星。もちろん、探偵も出てくるし、戦闘美少女だって登場する。アニメ化するには難しすぎるけれど、あと10年ぐらいしたら、そんなに難しい話になっていないかもしれない。
(2012.11.11)

アンドロイドの夢の羊

アンドロイドの夢の羊
THE ANDROID’S DREAM
ジョン・スコルジー
2006
(TW)史上初?おならSF!! 立派な21世紀古典的サイバーパンク&アクション&宇宙大戦ものです。主人公の仕事は「異星知性体への悪い知らせの伝達者」。新しい仕事は、羊の保護?? あーすっきりした。
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」P・K・ディックのあまりにも有名な作品であり、「ブレードランナー」というあまりにも有名なSF映画を生み出した作品である。
 地球は宇宙に進出し、銀河の様々な知的種属と出会い、貿易し、交渉し、時には緊張関係にあった。
 ある陰謀で、地球とニドゥ族の貿易交渉で事件が起き、この事件を解決するためにハリー・クリークが呼ばれた。元宇宙兵士で凄腕のハッカー。そして、現在の職業は「異星知性体への悪い知らせの運び屋」。ところが、今回秘密裏に指示された仕事は、羊を探して、保護して、連れてこい、っていうこと。羊は「アンドロイドの夢」という品種。これがないと地球には圧倒的に不利な星間戦争が起きてしまう。期限は1週間。ところが見つけた羊の正体はあれで、これが、こうして、ああなって、こうなっちゃう。
 タイトルはディックだけれど、内容はスコルジーらしい作品。笑えるし、すっきりする。
(2012.11.4))

成長の儀式

成長の儀式
RITE OF PASSAGE
アレクセイ・パンシン
1968
(TW)地球の人口の読みがするどい。解説や訳者あとがきにいろいろ背景が描かれているけれど、裏読みしたくないなあ。めずらしい1人称作品でもある。
 読んでから1年以上経った。ぱらぱらとめくってみる。14歳の少女の一人称作品である。巨大な宇宙船で生まれ、育ち、学び、そして、植民惑星での「成長の儀式」、大人になる儀式に備えて教育を受けている。父は宇宙船社会の政治家とも言える存在。いじめがあり、出会いがあり、師があり、そして、大人になる。死がある。自分だったかも知れない、死。
 14歳だから。
 日本だと中学校2年生だ。
 僕は世界におびえていたよ。
 35年ほど前のことだ。
 1979年。
 おびえていたから、後ろに付くのではなく、前に出ようとした。
 たぶん、そういうことだったんだろうと思う。
 ところで、本書が書かれたのは1968年。まだベトナム戦争と反戦運動がつづいていたよ。そういう背景があることは間違いないんだ。深読みしたくないけれど。
(2012.10.30)

レジェンド

レジェンド
LEGEND
マリー・ルー
2011
 ヤングアダルト近未来ディストピアのボーイ・ミーツ・ガール(逆かも)、もの。
 1984年生のアメリカ移住中国人のデビュー作である。
 アメリカをはじめ、世界が崩壊し、新たな小規模国家が次々と生まれ、戦いが起きた。
 アメリカ共和国は、強権国家となっていた。子どもの頃の能力判定審査で選別され、優秀な者はエリートへ、ほどほどのものは労働者へと割り振られ、下層部はどこに行くのかは分からない。情報は制御され、遮断され、人々はそこに生きることを自明のこととする他はなかった。
 デイは15歳。審査に落ち、逃亡し、そして、犯罪者となった少年。共和国のお尋ね者。テロリスト。しかし、彼は捕まらない。やがて彼は下層部の人たちの希望ともなった。
 ジューンは15歳。最高の得点で審査を通過し、エリートとして嘱望されている少女。父母を早くに事故で亡くし、たったひとり国家警察のエリート将校である兄を親代わりに生きてきた。
 そして、事件が起り、ふたりは出会う。物語が始まる。
 ちょっと先の未来がディストピアだって、みんな書いている。
 みんな予感している。
 遠い国の話ではなくて、今、そこにある世界。
 それでも、少女は少年に出会い、少年は少女に出会い、そして、次の希望が生まれるのさ。
 おびがすごい。「戦え! 15歳! 『AKIRA』の近未来で犯罪少年(ロミオ)と天才少女(ジュリエット)が出逢う。恋とスリルの米国版『NO.6』(あさのあつこ)、堂々開幕…大森望」だってさ。ヤングアダルトだからね。このくらい書かなきゃ。
(2012.6.30)

連環宇宙

連環宇宙
VORTEX
R・C・ウィルスン
2011
「時間封鎖」「無限記憶」に続く三部作の最終刊。大満足である。ああ、おもしろかった。でも、大落ちがもったいない。もっと読みたいのに、きちんと終止符が打たれた。
 舞台は、時間封鎖と無限記憶の間の世界。そして、登場人物の少年オーリン・メイザーが書いたノートには、1万年後の世界が描かれる。それは、「無限記憶」で登場したターク・フィンドリーのその後でもあった。交互に描かれる世界。「時間封鎖」でも「無限記憶」でも明らかにされなかったすべてがここで明らかにされ、そして、救済される。
 新たなる神の登場。
 それは、残酷な機械の神なのだろうか?
 情報と生命と宇宙を扱った21世紀頭の小説として、秀逸である。
 ストロスなど他の作家のSFを読みたくさせる力も持つ。
 21世紀初頭を代表する作品群であることは間違いない。
 とにかく読んで。
 いろいろ書きたいのだが、書かない。
 これは読む本だ。
(2012.6)