プランク・ダイヴ

プランク・ダイヴ
THE PLANK DIVE
グレッグ・イーガン
2011
 イーガンの短編集である。宇宙とは何か、意識とは何か、知性とは何か、ヴァーチャルとリアルの境目は? 科学の、そして人類の知の集積の周辺で語られていること。それを物語にのせていく。クラークが言ったように、「よく発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」から、物語のパターンによく当てはまる。
 2011年のうちに読んでいたのに、メモを取るのを忘れていた。
 意識して書かなかったのか。
 とてもおもしろい作品群なのに。
 あと数日で、2012年3月11日になる。1年。地球が太陽の回りをまわる周期。
 1年前、地球の片隅で、地殻の一部が震えた。
 1年前、そこに生きる生物が40年前に設置したアトムのおもちゃが制御できずに爆発した。
 高エネルギーの光を捉えることができたならば、アトムのおもちゃから光が沸き立ち、広がり、広がり、消えない姿を見ることができるであろう。

愛に時間を

愛に時間を
TIME ENOUGH FOR LOVE
ロバート・A・ハインライン
1973
「メトセラの子ら」の主人公ラザルス・ロングのその後である。4000年後の未来でも、ラザルス・ロングは生きて、そして、伝説の人となっていた。あらゆることを体験し、何度となく人生を繰り返してきたラザルス・ロングには、「生きる動機」が失われていた。彼を生かし続けるため、逆千夜一夜物語がはじまる。
「自由」と「義務」と「権利」について、独自の視点を持ち、いかにして人生を楽しむか、真剣に追求してきたハインラインならではの「歴史」が書かれていく。
 そして、ラザルス・ロングの要求は、「まだ体験していないことを探せ」。その要求に応えた子孫達の答えは。宇宙旅行、人工知能、クローン、タイムトラベルなどを経て、出てきた答えは…。ううん、これは書けない。
 それにしても、落ちが、落ちが…。大落ちがああああ。ハインラインらしいというか、しょうがないというか。もう。
 久しぶりに読み返したんだよね。今年はとても忙しくて…、ゆっくりとSFを読む気にならなかった。たしか秋に読んでいたんだ。原発事故が起きてから、SFを楽しむより現実の動きの非現実感にゆさぶられていたから。そんなときこそ、こういう大層なSFを読むといい。ほっとする。
(2011年12月24日)

ストーカー

ストーカー
ROADSIDE PICNIC
A&B・ストルガツキー
1980
 1972年から間欠的に発表されてきたロシアSFである。タルコフスキーが映画化したことでも知られる作品であるが、タルコフスキーの映画と原作である本書「ストーカー」はモチーフ以外はほとんど違う作品である。当初、作者のストルガツキー兄弟が映画製作に関与していたが、タルコフスキーの視点との違いで離れてしまった。私は、最初映画を見て、その後本作を手に取ったのだが、どちらもとても好きな作品である。
 さて、ここからは本作「ストーカー」の話をしよう。英語版のタイトルにあるとおり「道ばたのピクニック」である。誰の? さあ?
 地球外からの来訪者と思われる出来事が地球上の5カ所で発生した。その地はゾーンと呼ばれるようになり、国際地球外文化研究所の管理下に置かれた。ゾーンでは、物理法則を無視したような不思議な現象が起き、また、来訪者の落とし物と思われるいくつもの残留物があった。現象を解明し、残留物の使い道を発見することで、新たな科学技術への道が開かれると期待は高まったが、一方でゾーンは非常に危険なエリアでもあった。思いも寄らぬ死や、原因不明の怪我や病気、さらには、遺伝子への影響で本人や子どもにも影響を与えることがあった。ゾーンに入ることは厳しく管理されていたが、それでも、密猟者(ストーカー)は一攫千金を狙って、軍や警察の目をかいくぐり、ゾーンに入るのであった。死と背中合わせでも、それは「生きる」喜びでもあった。
 ゾーン。気がつかないうちに死が訪れる場所。入ることができない、人類には制御できないエリア…。
 もちろん、本作はチェルノブイリ原子力発電所の事故の前である。また、ソヴィエト崩壊のはるか前の作品である。
 それでも、今年、2011年にあらためて読むと、制御できない科学技術の結果に苦しむ我々の姿が重なってしまう。SFは現実を予見することができる。
 名作である。
(2011年12月24日)

グリム・スペース

グリム・スペース
ROADSIDE PICNIC
アン・アギアレイ
2008
 21世紀だなあ。しみじみそう思う。21世紀らしいスペースオペラです。王道かもしれない。主人公は、J遺伝子を持ち、異空間グリムスペースに入る超光速航法をナビゲートする能力を持った女性ジャンパー、シランサ・ジャックス。ジャンパーは企業複合体ファーワン社によって独占されており、シランサはその中でも超一流のジャンパーであった。ジャンパーには能力の限界が訪れる。シランサは、長い間能力を発揮し続けていたが、ある事故をきっかけに、パートナーのパイロットを失い、そして、ファーワン社によって軟禁されていた。「私が殺したのだろうか」「本当の原因はなんだったのだろうか」その疑問が彼女を突き動かす。ジャンパーを求めてきた男によって軟禁から救助されたシランサは、惑星や星間宇宙を舞台に、悩みながらも真相を求めて生き抜くのであった。
 強力な武器があるわけではない。
 敵は、社会そのものと言ってもいい、産軍複合体である。
 打って出るのは、おんぼろだったり、ぽんこつだったりする宇宙船。
 恋人だったパイロットへの思い。新たな恋愛の予感。そして、生きるために戦う。
 21世紀のヒーローは、たくましいのだ。
(2011年12月24日)

セックス・スフィア

セックス・スフィア
THE SEX SPHERE
ルーディ・ラッカー
1983
 数学者ルーディ・ラッカー、はちゃめちゃSF作家ルーディ・ラッカーの本領発揮である。「四次元の世界」という数学解説書を書いているだけのことはある。四次元の生きものがいたら、こんな感じ、というのを小説でしっかり読ませてくれる。
 それだけじゃない。
 タイトル通り「セックス玉」なのである。四次元の生物が、罠にかかって捕まった。なんとか逃げ出したい。四次元の生物である。三次元の生物のことなんかわかっちゃう。セックスだ。セックスを使うのだ。
 そこに目を付けられたのが、主人公の若手物理学者アルウィン・ビターくん。奥さんと子どもとのイタリア旅行の最中に、夜、ちょっと外に出たのが運の尽き。事件に巻き込まれ、やがて、テロリスト呼ばわりされるはめに。
 そして、世界を巻き込んで…。
 えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。
 四次元の勉強になるし、若い男の子にはたまらないセックス話。
 高校生や大学1年生に読ませたい作品だ。
 ところで、ラッカーの作品が最近邦訳されない。
 読みたいなあ。
(2011年12月24日)

フリーゾーン大混戦

フリーゾーン大混戦
FREE ZONE
チャールズ・プラット
1989
 世界は戦争と石油不足と地球温暖化でえらいことになったアメリカ。1999年12月。なんでもありの独立エリアフリーゾーンは、危機にあった。
 クリスマスで新年なのに。
 それはおいておいて…。
 未来の機械文明が気にした。
 海中の古の地球の支配者が目をさました。
 タキオン発生器が動き出した。
 生命を食らう異星人が地球に注目した。
 犬がしゃべった。
 はちゃめちゃだ。
「バーチャライズド・マン」のチャールズ・プラットである。
 ところで、このひと、「挑発」っていうSFポルノを書いていたんですね。富士見ロマン文庫から出ていたそうな。読みたいねえ。
 ああ、楽しい。SFっていい。
(2011年12月24日)

スモーク・リング

スモーク・リング
THE SMOKE RING
ラリイ・ニーヴン
1987
「インテグラル・ツリー」の続編。前作の最後で、新しいインテグラル・ツリーに到着し、新しい世界を切り開こうとしたギャヴィングら。それから10数年、子どもたちが生まれ、育っていた。人口14人のシチズン・ツリーは、ふたりの科学者をかかえ、それなりに平穏な日々を過ごしていた。そこに、「きこり」の一家が木の火災によって遭難、シチズン・ツリーの人たちによって救い出される。彼らによると、アドミラルティという町があり、たくさんの人々がひしめきあって暮らし、市場があって、地球産の植物も得られるという。この情報をめぐってシチズン・ツリーの大人達の議論は分かれていく。このまま静かに自立的に生きていくか、新しい知識や種子、道具を得るか。
 さらに、もともと人類をスモーク・リングまで運んできた播種・調査船「規律」号をコントロールし、人類の「反乱」によって残されてしまった人工知能ケンディの思惑が加わる。ケンディは、反乱した人類の末裔たちをふたたび統合し、規律の下に返したいと願っていた。そのためには、都市アドミラルティの状況をつぶさに知る必要がある。唯一ケンディと接触のあるシチズン・ツリーのメンバーをアドミラルティに行かせる必要がある。
 さあ、どうなる、シチズン・ツリー。
 そして、ケンディの秘密とは。
 不思議な、不思議な、物理空間は、実はとてもすごい空間。
 リング・ワールドとは違う世界。
 読むと楽しくなること請け合い。
(2011.08)

ねじまき少女

ねじまき少女
THE WINDUP GIRL
パオロ・バチガルピ
2009
 地球温暖化の進行で、海面上昇が止まらなくなった世界。平野部は次々に水没していく。バイオ技術と経済的混乱、石油の枯渇は、世界を大きく変える。遺伝子組み換え技術は、新たな作物を生み出すとともに、遺伝子組み換えによる新たな病害虫を生み出し、敵対的存在の作物を毒物化し、栽培不能にしていく。遺伝子戦争である。敵は、ライバル企業であったり、言うことを聞かない国であったり、あるいは、テロリストであったりする。その被害に巻き込まれるのは、人々。病にかかり、飢え、死ぬ。世界は混乱し、多くの政府が多国籍企業の軍門に屈す。しかし、その多国籍企業ですら、エンジンであった石油を失い、動力をカロリーをジュールに変える、すなわち、人や動物の力によってエネルギーを生み出さざるを得なくなる。燃やすのは論外。これ以上、炭素を放出することは許されない。
 そんな中でも、独立を保ち続ける、タイ。
 もちろん、タイも安定しているわけではない。高い防潮堤を築き、水を排出し続けなければならない。カロリー企業と言われる多国籍企業の圧力は経済的に、暴力的に、バイオ的に次々とタイの「市場開放」を求める。縮小の時代に、拡張を望むものたちは常にいる。
 登場人物のひとり、アンダースンもそのひとり。ヨーロッパでのビジネス拡張に失敗し、タイで失権回復を狙っている。マレーシアでの中国系マレーシア人大虐殺を逃れたホク・センを雇い、動力源を蓄積する「新型ゼンマイ」の製造工場を足がかりにしながら、タイのバイオ技術の背景を追っている。
 タイ国内も、一枚岩ではない。タイは国王の元に一体であるとともに、政治だけは常に争いを続けてきた。この時代でも変わらない。経済成長と市場開放をめざす通産省と、疫病を防ぎ、温暖化を対応する環境省の間で激しい闘争が続いていた。環境省側には、元ムエタイのチャンピョンで、疫病に対し死を賭して戦った、不正を許さない英雄ジェイディーがいる。いつもジョークを絶やさないジェイディーの部下には、決して笑うことをしない美女の副官カニヤがついている。ジェイディーは、正義を貫くとして、通産省のお膝元で不正を暴き、政界、経済界、外国資本に多大な被害を与えた。  どんな世界になっても、人間の欲望は変わらない。そして、富むものは富み、貧しきものはますます飢える。暴力が生まれ、愛が生まれる。死はあらゆるとろこに存在する。
 そのタイに日本からきたエミコが置き去りにされていた。有能な秘書であり、性的パートナーとしてつくられた新人類のエミコは、肌を美しくするために汗腺が少なく、タイのように暑いところでは生きていくのも苦労する。命令に対して服従する精神を植え付けられ、人間とは明らかに違って見えるように動きにぎくしゃくしたところを与えられた存在。「ねじまき少女」である。
 激動のタイで、エミコとアンダースンが出会い、そして、何かが生まれる。
 石油の枯渇、エネルギー危機、経済危機、食糧危機、気候変動、資源戦争、バイオ技術の暴走、なにもかもそろったディストピア社会。それでも人は生きるしかない。それが世界だから。
 それが世界だから。
 311以降の日本人が繰り返す自問自答。私達が生きている原発事故の後の世界。思わず笑うしかないような世界。その中で読む、ディストピア社会のSF。
 人間って馬鹿だよなあ。自分たちの環境を自ら壊してしまう。今壊れていなくても、潜在的に壊し続ける。その結果、自分たちが壊れてしまうという想像力を持てない。まったく持てないわけではなく、考えないようにしているだけだ。
 そこにこういうSFが登場する。
 21世紀SFの新人類は、「スラン」よりも迫害される。しかし、「スラン」のように希望を持つ。どんなに虐げられても、生あるものとして生まれた以上、希望を持つ。
 私達は、希望とともに生まれてきた。
 泣きたくなければ、笑うのだ。そして、世界が壊れたと思っても、ひとつずつ石を積み上げるしかない。あーあ。SFより現実の方がディストピアになろうとは。SFのわくわく感が減るよね。さ、楽しく読んだら、現実に戻ろう。
(2011.07)

クロノリス 時の碑

クロノリス 時の碑
THE CHRONORITHS
ロバート・チャールズ・ウィルスン
2001
 2021年、タイ・チャムポーンで、アメリカ人スコット・ウォーデンは妻と5歳の子どもを抱えつつ、日々を茫洋と暮らしていた。タイでのプログラマーとしての仕事を失い、アメリカに帰ることもせず、ただぶらぶらとタイの浜辺で暮らしていたのだ。5歳の娘が病気にかかり、高熱に苦しみ、片耳の聴力を失おうとしていたそのとき、ウォーデンは、悪友である麻薬のバイヤーとともに警察や軍の目を盗んで、山中で起きた爆発的な何かを見に行こうとしていた。独身のバックパッカーのような奴である。高さ数百メートルの淡い青いガラスのような記念碑がそこに静かに立っていた。周囲には氷がつき、まるで生まれたてのように。そこには、2041年12月21日に、タイ南部とマレーシアが戦争の結果「クイン」の支配下に置かれたことを記念する言葉が書いてあった。それが、未来からの侵略のはじまりであった。記念碑はクロノリス(時の碑)と名付けられる。
 時に、人口密集地に登場し、その周辺の人々や建物などを壊滅させてしまう「クロノリス」の存在は、世界を大きく変えてしまう。時間を遡り、過去に影響を与える力を持つ「クイン」への崇拝、恐怖。今自分が生きている場所が、クロノリスによって壊滅されるのではないかという恐怖。未来が支配されているという厭世感。未来のクインを探し、戦争を防ごうとする力。それは、やがて世界に紛争を巻き起こし、経済を混乱させ、文化を破壊していく。
 この科学的な原理と技術を解き明かし、対策をとろうと、ウォーデンの大学時代の恩師であるスラミス・チョプラが、政府の支援を受けて研究を続けていた。因果律の破綻は、タイムパラドックスは、クロノリスの目的は、影響は?
 スラミス・チョプラは、かつての教え子であるウォーデンを引き入れる。最初のクロノリスの現場にいたことは、決して「偶然」ではないと。
 時間がさかのぼれるということは、「偶然」と「必然」、すなわち、因果律が変わってくるということ。
 物語は、ウォーデンの一人称で進む。2021年から、クロノリスの最初の碑に書かれていた2041年に向かって、ウォーデンは年を取る。若者から、中年、そして初老へ。20年の時間の流れの中で、世界は変わり、ウォーデンは中心の周辺にいるものとして、まるで乱流に絡み取られた木の葉のように、振り回される。そして、それでも、人は生きる。娘は成長し、生活は変化していく。時代の変化とともに、個人も変化していく。
 それが、彼の生きる世界であり、彼が見る世界だから。
 これもまた、日本で311以降に出版されたSF。
 テーマとしては、時間SFであるが、ひとつの外挿が世界を大きく変え、それが個人の生活レベルで影響をどう与えるか書いたSFとしては、極めて今日的な作品である。
 古い古い話だが、新井素子が80年代に、極私的視点で世界の終わりや激変を描いていたが、21世紀になって、個人の生活視点から物語を構築する作品が増えているように思う。主人公に特別な力があるわけではなく、いやおうなく巻き込まれ、仕事や生活が変化していくという作品だ。第2次世界大戦後の、経済的、空間的拡張の時代から、行き止まり、縮小の時代の切り替わりを予感させるからであろうか。
 日本では、大地震とともに、原発事故という形で、物語でも予感でもなく、現実の中に時代の切り替わりを体験しはじめてしまった。それでも、それを世界として対処し、生きていくしかない。
 どうしても、どんな物語を読んでも、そこへ立ち返ってしまうなあ。
 物語としては絶品。おもしろいです。
(2011.07)

シリンダー世界111

シリンダー世界111
EMISSARIES FROM THE DEAD
アダム=トロイ・カストロ
2008
 宇宙の果て、というか、知的生命体が存在する星系から遠く離れている深宇宙。そこにシリンダー世界111がある。人類の平均的なシリンダー世界が長さ10km、直径2kmほど。大規模なもので、その10倍。たとえば、ニューロンドン。
 シリンダー世界111は、そのニューロンドンの長さ約1000倍、太さ約50倍。途方もない広大な世界である。しかも、普通のシリンダー世界ならば、内側の周縁部に人が暮らし、擬似重力のない中心部は空になる。ところが、111では、中心部に呼吸可能な大気があり、植物がツタのようになって世界を構築する。周辺部に行けば行くほど、大気は猛毒化し、周辺部は生存不能な別種の生態系となっている。111をつくったのは、AIソース。独立ソフトウェア知性集合体である。AIソースは、古き時代にどこかで知性を獲得し、その後、それぞれの知的種属が生み出したソフトウェアあるいは、そこで生まれたAI知性体を吸収しながら宇宙のあまたの知的生命体に、気まぐれにサービスを提供し、技術を販売し、接触を持ちながらも、超越した振る舞いをしていた。
 AIソースは、あるとき、知的生命体に111の存在を示した。111には、中心部にAIソースが生み出した知的生命体が存在する。彼らとの接触を望んだ知的生命体らの要望に応える形で、人類が外交的な調査滞在を認められた。常にぶらさがって、落ちることを意識しなければならない世界で。
 そこで、殺人事件が起きる。状況証拠から、AIソースが犯人だが、その理由はないし、人類にとってAIソースに波風を立てるわけにはいかない。必ず別の犯人を見つけ、逮捕してこい、と、ホモ・サピエンス連合外交団法務部陪席法務参事官アンドレア・コートに命が下った。実際には、別の操作事件を追え、ニューロンドンに帰還する星間輸送船の星間睡眠中に行き先を変えられ、有無を言わせず111に連れてこられたというのが現実。それでもアンドレア・コートには、断ることはできない。彼女は「連合外交団」によってその存在を守られている事実上の「奉公人」であり、「奴隷」だから。
 高所恐怖症で、自然生態系が大嫌い、人間も嫌い、自分も嫌いな、アンドレア・コートが、ついたとたんに、「実はふたつめの殺人事件が」と来た。
 特殊な環境に置かれた外交団と、ウデワタリと呼ばれるスローモーな知的生命体と、AIソースに取り囲まれ、自らの命を狙われながら、いわゆる「刑事」として真実に迫る。それは、彼女の過去をえぐる捜査ともなるのだった…。
 釣書にあるけれど「奇怪な世界を舞台に美貌の女探偵の活躍を描く傑作ハードSFミステリ」なのだろうな。おもしろいです。実際。一気読みしたし。
 カテゴリとしては、人工知性体ものになるのかなあ。状況としては、最近読んだ「インテグラル・ツリー」とも似ているかも。暮らす場所が宙づりのロープの周りなのだから、いつだって手を離せば、すべれば、ころべば、落ちちゃう世界なのだ。樹上世界でもあるなあ。映画の原作向きかも。
(2011.07)