明日を超える旅

明日を超える旅
JOURNEY BEYOND TOMORROW
ロバート・シェクリイ
1962
 30世紀に残るジョーンズの旅行記の記録である。21世紀、ジョーンズはアメリカ人の両親の仕事で、太平洋上に浮かぶ一小島に育った。その島に他のアメリカ人はおらず、父の死後、父の仕事を太平洋電力会社からの要請で引継、25歳まで働いていたが、事業が停止され、彼は首に。彼は恋人を置いて、アメリカに旅立つこととした。そして、ジョーンズの物語がはじまる。そのタイトルだけでも頼もしい。
 ジョーンズ旅に出ること
 ラムとジョーンズ、会見のこと
 国会調査摘発委員会
 いかにジョーンズは裁かれたか
 ジョーンズとワッツと警官の話
 ジョーンズと三人のトラック運転手
 精神病院でのジョーンズの冒険
 ジョーンズはいかに教え、なにを学んだか
 ユートピアの必要
 いかにしてジョーンズは政府機関の一員となったか
 オクタゴンでの冒険
 ロシアの話
 戦争の話
 いかにしてラムは陸軍に入隊したか
 アメリカからの脱出
 旅路の終わり
 二十世紀がいかにばかばかしいことの連続であったか、軽く楽しませてくれる。
(2010.05.02)

変化の風

変化の風
THE WINDS OF CHANGE AND OTHER STORIES
アイザック・アシモフ
1983
 1986年8月に邦訳されているアシモフの短編集である。
 ここでもマルチヴァクが登場する。超巨大電算機、コンピュータ、動かないロボットである。マルチヴァクの神託を聞くには神官が必要である。つまり、正しい質問と正しいデータを渡し、出てきた答えを解釈する者である。まさしく神官。「接近中」では2030年に、宇宙より接近する何者かが、意味不明のメッセージを送ってきた。解読の可能性があるのはマルチヴァクのみ。さて、どうなる。
 もうひとつ、今日的に気になる作品がひとつある。「最後のシャトル」である。1981年の最初のスペースシャトル「コロンビア」を記念した作品である。シャトル計画は、70年代には本格稼働の予定だった。遅れに遅れて80年代に入る。それでも打ち上げと続くミッションは衝撃的だった。宇宙に行って帰る船である。2003年、帰還時に空中分解、7名の宇宙飛行士も失われた。その後、シャトルのミッションは再開されたが、もうまもなくスペースシャトルは退役し、その後の有人宇宙往還船の計画はない。残念である。この「最後のシャトル」は、ずっと遠くの未来まで使われていたシャトルの話である。
(2010.05.02)

アシモフ初期作品集3

アシモフ初期作品集3 母なる地球
THE EARRY ASIMOV
アイザック・アシモフ
1971
 そして、「鋼鉄都市」「はだかの太陽」と連なる、ロボットものと、宇宙国家と閉塞する人類の話の大元の作品が登場する。「母なる地球」である。地球を閉じ込める宇宙国家のひとつオーロラが登場する。1948年に書かれた作品だが、地球の人口は60億人としている。なかなかの数字じゃないか。
(2010.05.02)

アシモフ初期作品集2 ガニメデのクリスマスマス アイザック・アシモフ

アシモフ初期作品集2 ガニメデのクリスマス
THE EARRY ASIMOV
アイザック・アシモフ
1971
 いよいよ歴史心理学の曙である。「地球種属」「虚数量」で心理学が語られる。アシモフが自ら書いているとおり、集団を対象にした心理学がストーリーの根幹として使われる。ちなみにこのころは、異星人も出てくる。まだ人類以外の知性体がいる宇宙である。いずれアシモフの宇宙からは消えていくのだが…。
(2010.05.02)

アシモフ初期作品集1 カリストの脅威

アシモフ初期作品集1 カリストの脅威
THE EARRY ASIMOV
アイザック・アシモフ
1971
 本当に、この作家は! 19歳にして作家デビューした多作家で、さらに日記をしたため、若い頃からコアなファンがいると、こうなるのだ。単行本未掲載の初期作品を集めて、時系列にまとめた作品群。趣味の世界であるが、それが翻訳され、出版され、そこそこ売れる。すごい作家である。笑える作品も多いし、赤面しそうな作品もある。何より、アシモフの若い頃と言えば、第二次世界大戦以前のことである。ヒットラーの台頭など、ユダヤ系アメリカ人のアシモフにはたまらないものだったろう。そういう話も満載である。
 その中で、「太陽をめぐるリング」はユーモアたっぷりの作品である。太陽系の郵便配達船が、より高速に届けるため、太陽近接軌道を試すことになった。ふたりのパイロットがそれに挑むが…。1939年に書かれた作品で、若書きではあるが、スラップスティックとしてはなかなかのものである。さすが、アシモフ。
(2010.05.02)

サリーはわが恋人

サリーはわが恋人
NIGHTFALL TWO
アイザック・アシモフ
1969
 短編集である。ロボットも出てくる。動かないロボット、世界を統べるコンピュータのマルチヴァクも出てくる。この短編集は、NIGHTFALL AND OTHER STORIESを日本で二分冊にした後半である。であるから、本書は、NIGHTFALL 2 である。NIGHTFALL といえば、「夜来たる」である。後に長編化されているが、オリジナルは短編の作品で、それが収められているのがNIGHTFALL ONE 「夜来たる」である。実は、この短編集を持っていない。読んでいないのか、どうしたのか、こちらもまた忘却の彼方である。
 さて、本書「サリーはわが恋人」の表題作は、自動車型ロボットというか、陽電子頭脳付き自動車の物語である。喋らないが、意志はある。そんな自動車たちの愛らしい物語をどうぞ。
 そうそう「戦争に勝った機械」に出てくるマルチヴァクと太陽系連合軍司令官と、その取り巻きたちの会話も捨てがたい。
(2010.05.02)

火星人の方法

火星人の方法
THE MARTIAN WAY AND OTHER STORIES
アイザック・アシモフ
1955
 表題作の他、「若い種族」「精神接触」「まぬけの餌」の4編が収められた中編作品集である。
 表題作「火星人の方法」は、私が好きな「火星」ものである。火星を舞台にした作品は、あまたある。異星人としての火星人ものもあるが、人類が新たな生活の場として選んだ火星での生き方、地球と火星の対立などがテーマとなっているものも多い。私は、人類が火星という新たな土地を得て、その苦労を惜しまずに生活を築き、生きていく話が好きだ。月もいいけど、火星はいい。ほどよく地球から近く、そして遠い。地球からみる火星は一点の明るい赤い星である。火星からみる地球もまた一点の明るい青い星にすぎないであろう。月ではこうはいかない。地球が空にいる。地球と火星ほどに離れていれば、人々の意識が変わる。もっと外を見るようになる。そうなるといい。
表題作「火星人の方法」は人間の移住先としての火星と、その地球との対立を描いた作品である。1950年代の作品であり、同様のテーマではかなり先行している。  火星に人が定住を始めてから三代、5万人の人口を数えるようになった。火星の大気は呼吸不能であり、人は地下に町を作った。火星人たちにとって、火星で入手不能なのは水である。火星は、鉱物を地球に送り、地球から水を得た。しかし、地球では、宇宙進出反対者たちを中心に、火星に水を送ることに批判的な勢力が力を増していた。火星人たちが選んだ方法は…。
(2010.05.02)

ロボットの時代

ロボットの時代
THE REST OF ROBOTS
アイザック・アシモフ
1964
 原題通り、「わたしはロボット」(ハヤカワ版では「われはロボット」)の残りの短編を集めた1冊である。スーザン・キャルビン博士(創元版ではスーザン・カルヴィン)が登場する作品も4編あり、まとめて読むととても楽しい。
 このなかに、とても短い「第一条」という短編が掲載されている。キャルビン博士は出てこない、例のドノバンが一人で登場する作品である。もちろん、「第一条」とはロボット三原則の第一条である。アシモフがのちに「第〇条」を生み出すまで、この第一条がロボットの陽電子回路に刻まれた至高の命令であった。
「ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない」である。
 どうやってこれを命令するのかは不明であるが、そんなことを考える時代ではない。後に問題になったのは「人間」の定義であったりもする。
 そういう難しい話ではなく、ドノバンの「与太話」として三原則に問題を投げかけたのが「第一条」である。
(2010.05.02)

地球は空地でいっぱい

地球は空地でいっぱい
EARTH IS ROOM ENOUGH
アイザック・アシモフ
1957
 アシモフの初期短編を集めた作品集である。日本で邦訳されたのが昭和63年、1988年。バブル真っ盛り。SFも真っ盛りの季節である。次々に邦訳される作品たち。仕事が忙しく、インターネットはまだで、ついつい買い忘れることも多かった。そんな時代。
 作品は50年代のもので、アシモフが若かりし頃の短編がずらりと並んでいる。SFあり、ロボットあり、ファンタジーあり、ユーモアありと、アシモフのカタログといった趣がある。
 そのなかで、今回読んで楽しかったのは「投票資格」。広義のロボットもので、動かない地球の為政者「マルチヴァク」の物語である。アメリカで4年に一度行使される、アメリカ国民の最大の権利である大統領選挙。「マルチヴァクの時代」であっても、アメリカ大統領は選出しなければならない。果たして、どのようにすればいいのか? アシモフが考えたちょっとウィットの効いた結論とは?
 インターネットが普及し、匿名の大衆の発する声の情報ラインと、よくわからない「マスメディア」という情報ラインが交錯し、正義とか公正といったものが、なんだかよく分からないことになってしまった現在の対極の回答がここにあると言ってもよい。どっちもいびつで変で、笑えるのだが、現実というのは笑えないところもあるので、こういう作品を読んで笑っておいた方がいい。
(2010.05.02)

聖者の行進

聖者の行進
THE BICENTENNIAL MAN AND OTHER STORIES
アイザック・アシモフ
1976
 創元推理文庫SFより1979年3月に初版が出ている。中学校3年生が終わる頃である。高校に上がる前の春休みに読んだ記憶がおぼろげながらある。
 とても気に入っている短編集である。受験が終わってほっとした時期に読んだということもあろうし、当時としてはアメリカでの初出からあまり日をおかずに出版されていることから、「古さ」を感じさせない作品群であったことも、強く印象付いているのだろう。
 1975年に書かれた「篩い分け」では、2005年に、「地球の人口は六十億に達していた。飢饉がなければ七十億を数えていたに違いない」と記されている。時は、「公害」から「環境」に問題意識が移り始めた時期であり、「環境」問題の中心に人口爆発があることが意識された。同時に、1974年の第一次オイルショックと同年に起きた地球規模の穀物不作による食糧危機と飢餓の発生が、アシモフにこの作品を書かせたのかも知れない。
 さて、私がもっとも気に入っているのは「バイセンテニアル・マン」である。1993年にロバート・シルヴァーバーグが長編化し、1999年には映画化された「アンドリューNDR114」の元となった短編である。あるロボットの200年に渡る「人間になりたい」を描いた作品として、「人間とは」「人間ではないとは」を考えさせた作品である。
 この作品は、ロボットものとしてアシモフにヒューゴー賞、ネビュラ賞をもたらしたが、ロボットシリーズの集大成とも言っていい。
 もうひとつ、「三百年祭事件」も捨てがたい。こちらは、アメリカ建国300年での記念式典をテーマにしたロボットものである。1976年は、アメリカ建国200年であり、その前年に発表されたミステリ作品でもある。こちらもある意味で、「人間とは」「人間ではないとは」を問うた作品である。
 ロボットが、ロボットであることの意義や意味を考える。このような作品群を見ると、その後、アシモフがロボットものを、ファウンデーションシリーズに統合していくことも納得がいく。
(2010.05.02)